ロバート・ブラウニング

原綴
Robert Browning
生没
1812–1889
出身
ロンドン・キャンバーウェル
イギリス
時代
ヴィクトリア朝

生涯

1812年、ロンドン郊外のキャンバーウェルに生まれた。学校よりも、父の豊かな蔵書によって、みずから学んだ。若くして詩を発表したが、その難解さのため、当初はなかなか評価されなかった。

同じく詩人だったエリザベス・バレットとの結婚は、文学史に名高い。病弱で、家に閉じ込められていたエリザベスと、手紙を通じて愛を育て、父の反対を押し切って結婚した。二人はイタリアに移り、幸福な日々を送った。

エリザベスの死後、イギリスに戻った。この頃から、ブラウニングの詩はようやく広く認められ始めた。とりわけ長篇詩『指輪と本』の成功によって、テニスンと並ぶ、ヴィクトリア朝を代表する詩人としての地位を確立した。1889年、イタリアのヴェネツィアで没した。

作風

ブラウニングの詩の最大の特徴は、「劇的独白」の形式にある。これは、詩人自身ではなく、ある登場人物が、一人で語り続けるという形式である。聞き手はいるが、語るのはその人物だけである。読者は、その独白を聞きながら、語り手自身も気づいていない本心や、隠された真実を、少しずつ読み取っていく。

この形式を通して、ブラウニングは人間の心理の複雑さを描いた。代表的な独白詩「わが前公爵夫人」では、一人の公爵が、亡き前妻の肖像画を見せながら語る。その言葉の端々から、公爵の傲慢と嫉妬、そして妻を死に追いやったらしい冷酷さが、しだいに浮かび上がる。語り手が語れば語るほど、その正体が暴かれていく。

扱う人物も、時代も、幅広い。ルネサンス期の画家や聖職者、中世の人物など、さまざまな時代の、さまざまな心をもつ人間を、独白の形で生き生きと造形した。人間という存在の、善悪の入りまじった複雑さそのものが、ブラウニングの主題だった。

作品

『男と女(Men and Women)』(1855年)

さまざまな人物の劇的独白を集めた詩集である。亡き妻について語る公爵の冷酷を暴く「わが前公爵夫人(My Last Duchess)」など、ブラウニングの代表的な独白詩を収める。人間心理の探究を示す、その中心的な作品にあたる。

『指輪と本(The Ring and the Book)』(1868-1869年)

十七世紀ローマで実際に起きた殺人事件を題材にした、長篇詩である。同じ事件を、関係する複数の人物が、それぞれの立場から独白する。一つの真実が、語る者によっていかに違って見えるかを描いた、野心的な作品である。

文学史における立ち位置と影響

ブラウニングは、劇的独白の形式を完成させた詩人として文学史に名を残す。詩人が自らの感情を直接うたうのではなく、他者の心のなかに入り込み、その内面を語らせる。この方法は、詩における人間心理の描写を、格段に深いものにした。

その心理探究の手法は、後の詩に大きな影響を与えた。とりわけ、語り手と詩人自身を切り離し、複雑な意識をとらえるその方法は、二十世紀の現代詩へと受け継がれた。人間の内面の複雑さを描く点で、ブラウニングは時代を先取りしていた。

同時代のテニスンが、時代の感情を美しく代弁したのに対し、ブラウニングは、人間の心の暗部や矛盾を、鋭くえぐった。ヴィクトリア朝詩の二つの極として、二人はしばしば並べて論じられる。

登場する文学史