アーサー王の死

原題
Le Morte d'Arthur
作者
トマス・マロリー
成立
1485
イギリス
時代
中世

概要

1485年に、印刷業者ウィリアム・キャクストンによって刊行された散文物語である。英語で書かれた、アーサー王物語の集大成にあたる。

内容は、伝説の王アーサーの一代記である。魔法の剣エクスカリバーを得ての即位、円卓の騎士団の結成、聖杯の探索、そして王国の崩壊と、アーサーの死までを描く。ランスロット、ガウェイン、トリスタン、ガラハッドといった、名高い騎士たちの物語が、その中に織り込まれる。

素材は、それ以前に、主にフランス語で書かれていた、膨大なアーサー王伝説である。マロリーは、これらの散在する物語を、英語で、一つの大きな物語としてまとめ上げた。それまで断片的だったアーサー王伝説を、統一された一つの物語として提示した点に、この作品の意義がある。

マロリーの生涯には、不明な点が多い。同名の人物が複数おり、作者がどの人物かは確定していない。有力な説によれば、作者は、強盗、暴行、恐喝などの罪で、繰り返し投獄された騎士だったとされる。この作品は、その獄中で書かれたと考えられている。作品の末尾に、作者が「囚われの騎士」であることを示唆する記述がある。

理想の騎士道を描いた作品が、実際には罪を重ねた騎士によって、獄中で書かれたという逆説は、しばしば注目される。

刊行は、1485年。イングランドに印刷術を導入したキャクストンによる。キャクストンは、マロリーの原稿に、大幅な編集を加えている。1934年に、キャクストン版とは異なる写本(ウィンチェスター写本)が発見され、マロリーの本来のテクストに近いものが明らかになった。

文学史における評価と影響

英語のアーサー王物語の決定版である。後世に伝わるアーサー王伝説の多くは、直接・間接に、この作品に由来する。

この作品の意義は、まず、集大成にある。それまで、フランス語を中心に、断片的に存在していたアーサー王伝説を、マロリーは、英語で、一つのまとまった物語に織り上げた。英語圏におけるアーサー王物語の標準的な形を、この作品が定めた。

主題としては、理想の崩壊が中心にある。円卓は、騎士道の理想の体現である。だが、その理想は、内側から崩れていく。ランスロットとグィネヴィアの抑えがたい愛。それが、忠誠と、名誉と、友情を、次々に破壊していく。人間の情熱が、いかにして理想の共同体を滅ぼすか。 この栄光と崩壊の物語は、単なる冒険譚を超えた、深い悲劇性を帯びている。

後世への影響は、はかりしれない。19世紀のヴィクトリア朝で、アーサー王物語は、大きな復興を遂げた。テニスンの連作詩『国王牧歌』は、この作品を主な素材にしている。ラファエル前派の画家たちも、アーサー王伝説を、繰り返し題材にした。20世紀以降も、小説、映画、ゲームなど、あらゆる形で、アーサー王物語は再生産され続けている。その源泉の多くが、この作品にある。

日本でも訳が読める。長大だが、アーサー王物語の全体像を知るための基本文献である。

あらすじ

物語は、アーサーの出生から始まる。ブリテン王ウーサーの子として生まれたアーサーは、魔術師マーリンによって、身分を隠して育てられる。長じて、岩に刺さった剣を抜き、正統な王であることを証明して、即位する。

アーサーは、王国を平定し、キャメロットの城に、円卓を設ける。円卓には、上下の別がない。 そこに集う騎士たちは、みな対等である。アーサーは、最も優れた騎士たちを、円卓の騎士団に迎える。騎士たちは、正義を守り、弱きを助け、名誉のために戦うことを誓う。円卓は、騎士道の理想の体現となる。

物語は、個々の騎士の冒険を、次々に語る。とりわけ、ランスロットは、最強の騎士として、数々の武勲を立てる。だが、ランスロットは、アーサー王の妃グィネヴィアと、密かに愛し合っている。この不義の愛が、後の破局の種になる。

物語の中心の一つが、聖杯の探索である。最後の晩餐に使われたとされる聖杯を求めて、騎士たちが旅立つ。だが、聖杯を得ることができるのは、最も清らかな騎士だけである。姦通の罪を負うランスロットは、聖杯に近づくことはできても、それを完全には見ることができない。聖杯を得るのは、ランスロットの息子で、罪のない騎士ガラハッドである。円卓の騎士の多くが、この探索の途上で命を落とす。 円卓の団は、聖杯探索によって、大きく損なわれる。

そして、破局が訪れる。ランスロットとグィネヴィアの不義が、露見する。アーサーは、王妃を火刑に処さざるを得なくなる。ランスロットは、王妃を救出するが、その際、円卓の騎士たちを、多数殺してしまう。この中には、ガウェインの弟たちも含まれていた。円卓の団は、内部の対立によって、二つに割れる。

ガウェインは、弟たちの復讐に燃え、アーサーを、ランスロットとの戦争へと駆り立てる。アーサーが、ランスロット討伐のために国を留守にした隙に、王の甥(あるいは子)モードレッドが、王位を簒奪する。アーサーは、急ぎ帰国し、モードレッドと決戦に臨む。

最後の戦い、カムランの戦いで、両軍は壊滅する。アーサーは、モードレッドを討つが、自らも致命傷を負う。円卓の騎士も、ほとんどが死ぬ。死にゆくアーサーは、剣エクスカリバーを、湖に投げ返すよう命じる。そして、三人の女王が乗る小舟に運ばれ、アヴァロンの島へと去っていく。いつの日か、再び戻ってくると言い残して。グィネヴィアは修道院に入り、ランスロットも隠者となって、程なく死ぬ。理想の王国は、失われる。

作者

登場する文学史