不在地主
- 作者
- 小林多喜二
- 成立
- 1929
- 国
- 日本
- 時代
- 近代
概要
土地を離れた都会に住み、農民を搾取する地主と、それに抵抗する小作争議を描いた小説である。
小林多喜二は、蟹工船や一九二八年三月十五日で、労働者や活動家の闘いを描いた。この『不在地主』は、その筆を、農村の問題へと向けた作品にあたる。
題の「不在地主」とは、自分は土地に住まず、都会で暮らしながら、故郷の土地を所有し、小作人から高い小作料を取り立てる地主を指す。多喜二の故郷・北海道でも、こうした不在地主が、貧しい小作農を苦しめていた。
物語は、北海道の農村を舞台に、不作にあえぐ小作農たちが、法外な小作料に耐えかねて、地主に立ち向かう小作争議を描く。農民たちは団結し、小作料の引き下げを求めて闘う。だが、地主の側には、警察や法律、そして資本の力がついている。
多喜二は、農村における搾取の構造を、具体的に描き出す。都会で豊かに暮らす地主と、その富を生み出しながら飢える農民。 その不公正を、多喜二は告発する。
蟹工船の海の労働、一九二八年三月十五日の都市の運動に続いて、農村の闘いを描いたこの作品は、多喜二がプロレタリア文学の対象を広げた仕事にあたる。
文学史における評価と影響
小林多喜二のプロレタリア文学の一作であり、農村の階級問題を正面から扱った作品として知られる。
この作品の意義は、プロレタリア文学の視野を、農村へと広げた点にある。多喜二は、蟹工船で海の出稼ぎ労働を、一九二八年三月十五日で都市の政治運動を描いた。この『不在地主』では、農村における地主と小作の対立を取り上げた。 搾取の構造が、社会のあらゆる場所に及んでいることを示そうとした。
主題は、不在地主による農民の搾取と、それに抵抗する小作争議である。土地に住まず、都会で富を享受する地主。その一方で、土地を耕しながら飢える小作農。多喜二は、この不公正な構造を、具体的な物語のなかで暴き出す。
告発の文学という点で、多喜二の一貫した姿勢がここにも現れている。虐げられる者の側に立ち、社会の不正を告発し、団結による抵抗を描く。農民の争議を通して、多喜二は、抑圧に立ち向かう連帯の力を描こうとした。
この作品によって、多喜二は、いっそう官憲ににらまれることになった。故郷の実在の不在地主をモデルにしたともいわれ、発表後、多喜二は勤めていた銀行を解雇された。 プロレタリア作家として生きる多喜二の覚悟を示す作品でもある。
あらすじ
北海道の農村。この地の広大な土地は、不在地主——都会に住み、自分は農作業をしない地主によって所有されていた。
その代表的な地主が、磯野という人物である。磯野は、都会で豊かに暮らしながら、故郷に広大な農地を持ち、そこを大勢の小作人に貸し付けていた。小作人たちは、収穫の多くを小作料として磯野に納め、わずかな取り分で、細々と暮らしていた。
ある年、深刻な不作が農村を襲う。冷害や災害で、収穫は大きく落ち込んだ。それでも、地主・磯野は、例年どおりの高い小作料を、容赦なく取り立てようとする。 このままでは、小作農たちは、生きていくことさえできない。
追い詰められた小作農たちは、団結して立ち上がる。小作料の引き下げを求め、地主に対抗する小作争議を起こすのである。農民たちは、組合を作り、要求を掲げて、磯野と交渉しようとする。
だが、闘いは容易ではない。地主の側には、警察や、法律や、資本の力がついている。 磯野は、農民の要求を突っぱね、争議を切り崩そうとする。切り崩しの工作や、脅し、そして官憲の介入によって、農民たちの団結は、揺さぶられる。
物語は、この争議の展開を軸に、農村の搾取の構造を、具体的に描き出していく。都会で富を享受する不在地主と、その富を土から生み出しながら、飢えに苦しむ小作農。その埋めがたい不公正が、くっきりと浮かび上がる。
農民たちは、権力と資本の力の前に、苦しい闘いを強いられる。だが、多喜二が描こうとしたのは、その闘いを通して育っていく、農民たちの連帯と、抵抗の意志だった。
土地を持たぬ者が、土地を持つ者に搾取される。その構造への告発と、それに立ち向かう農民の姿を描いて、この作品は、プロレタリア文学の一つの記録となっている。