あらたま

作者
斎藤茂吉
成立
1921
日本
時代
近代

概要

燃えるような生命感覚から、より静かな内省の世界へと深まった第二歌集である。

茂吉は第一歌集赤光で生命の激しい感動をうたい、近代短歌に衝撃を与えた。この第二歌集『あらたま』では、その激しさがいくぶん鎮まり、より沈静した内省的な写生の世界が広がる。

歌集には日々の自然の観察や身辺の出来事、そして生と死をめぐる静かな思索がうたわれる。第一歌集の噴き上げるような主観は影をひそめ、対象をじっと見つめる落ち着いた眼差しが前に出てくる。

代表的な歌に「照る月のひかりを浴びてゐる時にふと湧く思ひあり悲しかりけり」のような、静かな哀感をたたえた作がある。激情ではなく、内へ沈んでいくしめやかな感情がこの歌集の基調にあたる。

茂吉の「写生」はここでより深く思索的になる。対象を写しながら、その奥にある生命の理(ことわり)や時の移ろいへと、静かに思いを及ぼす。

激しい赤光と静かな『あらたま』。この二冊によって茂吉の写生短歌の世界は、その幅を確立した。

文学史における評価と影響

斎藤茂吉の初期を代表する第二歌集であり、赤光と対をなす重要な作品にあたる。

第一歌集赤光が生命の燃えるような激情をうたったのに対し、この『あらたま』はより沈静し、内省的な深まりを見せる。 若き日の噴き上げる主観がしだいに鎮まり、対象を静かに見つめる成熟した写生の眼差しへと移っていく。

茂吉の写生論の深化がこの歌集に現れている。茂吉は対象を客観的に写すだけでなく、その実相に深く入り込む「実相観入」の理念をいっそう深めた。自然や事物を静かに凝視するなかで、生命の理や時の流れへの思索がにじみ出る。

主題は静かな哀感と生への内省である。第一歌集の生と死の激烈なドラマに代わって、ここでは日常の自然のなかに、しめやかな悲しみや無常への思いが静かにうたわれる。

この歌集によって茂吉は、激情と沈潜という二つの世界を併せ持つ歌人としての地歩を固めた。アララギ派の中心歌人として、以後の近代短歌をリードしていく茂吉の確かな基盤となった作品にあたる。

内容

歌集『あらたま』斎藤茂吉の第二歌集である。第一歌集赤光の燃えるような生命感覚をたたえた世界から、この歌集ではより静かで内省的な境地へと歌が深まっている。

題の「あらたま」は、まだ磨かれていない荒れたままの玉を意味する言葉であり、また「あらたまの年」のように年月にかかる枕詞でもある。時の移ろいと、素朴で確かな生命への静かな眼差しが、この題には込められている。

歌集にうたわれるのは、日々の自然の観察や身辺のこまやかな出来事、そして生と死や時の流れをめぐる静かな思索である。

「照る月のひかりを浴びてゐる時にふと湧く思ひあり悲しかりけり」。月の光を浴びているとき、ふと胸に湧いてくる名づけようのない悲しみ。激情ではなく、内側へ静かに沈んでいくしめやかな感情が、こうした歌にうたわれる。

第一歌集赤光の噴き上げるような主観の激しさは、ここではいくぶん影をひそめる。代わって前に出てくるのは、対象をじっと見つめる落ち着いた深い眼差しである。

茂吉の「写生」はこの歌集でより思索的になる。自然や事物を静かに凝視するなかで、その奥にある生命の理や避けがたい時の移ろいへと、詩人の思いは静かに及んでいく。

激しい生命の感動をうたった赤光と、静かな内省を深めた『あらたま』。この対照的な二つの歌集をあわせ持つことで、斎藤茂吉の写生短歌の世界は豊かな幅を確立した。

作者

登場する文学史