ブラジュロンヌ子爵

作者
アレクサンドル・デュマ(大デュマ)
成立
1847-1850
フランス
時代
19世紀

概要

「三銃士」三部作の完結篇であり、老いた銃士たちの終焉を描いた大作である。

デュマは、三銃士二十年後と続けてきた、ダルタニャンと三銃士の物語を、この作品で完結させた。膨大な分量を持つ、三部作の最終部にあたる。

物語の舞台は若き国王ルイ十四世が、親政を始め、絶対王政を確立していく時代である。かつての銃士たちはみな老年にさしかかっている。そしてこの完結篇で、四人は、それぞれの死へと向かっていく。

この長大な作品のなかで、とりわけ名高いのが、「鉄仮面」の物語である。バスティーユ牢獄に、鉄の仮面をかぶせられて幽閉された、謎の囚人。その正体は実は国王ルイ十四世の双子の兄弟だったという、大胆な着想が語られる。

アラミスはこの双子を入れ替えて、王位を奪おうという、壮大な陰謀を企てる。だがその企ては失敗する。 そしてこの陰謀をめぐって、四人の銃士の運命も、決していく。

物語の終わり、四人の銃士は、一人また一人と、この世を去っていく。ポルトスの英雄的な死、アトスの静かな死、そしてダルタニャンの戦場での最期。 青春から死までの四人の全生涯が、ここで閉じられる。

文学史における評価と影響

デュマの「ダルタニャン物語」三部作の完結篇であり、その壮大な物語を締めくくる大作とされる。

三部作は三銃士の若さ、二十年後の円熟を経て、この完結篇で、老いと死へと至る。 四人の銃士の青春から死までの全生涯を描き切った点で、この三部作は、フランス大衆小説の記念碑的な達成とされる。

とりわけ「鉄仮面」の物語が後世に大きな影響を与えた。ルイ十四世の双子の兄弟が、鉄仮面をかぶせられて幽閉されていた、というデュマの着想は、史実に材をとりながら、大胆に脚色されたものである。この魅力的な謎は繰り返し映画化され(「仮面の男」など)、広く知られるようになった。

主題は時代の変化と、英雄の終焉である。四人の銃士が生きた、剣と友情と冒険の時代は、ルイ十四世の絶対王政の確立とともに、終わりを告げる。古い時代の英雄たちが新しい時代のなかで、次々に死んでいく。 その哀愁が、作品を貫いている。

ポルトスの死の場面はフランス文学における名場面の一つとされる。巨人のような怪力の持ち主ポルトスが、洞窟の崩落を、その両腕で支えながら、力尽きて死んでいく。その英雄的な最期は多くの読者の胸を打ってきた。 三部作の掉尾を飾る、感動的な大作である。

あらすじ

若き国王ルイ十四世の時代。かつての銃士たちはみな、老年にさしかかっていた。

物語は複雑に絡み合う、いくつもの筋を、たどっていく。若きルイ十四世が宰相マザランの死後、みずから権力を握り、絶対王政を確立していく過程が、その大きな背景をなす。アトスの息子、若きブラジュロンヌ子爵ラウルの悲恋の物語も織り込まれる。

そしてこの大作の中心をなすのが、「鉄仮面」の物語である。

野心家のアラミスは今や高位の聖職者となり、ある恐るべき秘密を握っていた。バスティーユ牢獄に、鉄の仮面をかぶせられて、幽閉されている、謎の囚人がいる。その正体はなんと、国王ルイ十四世の双子の兄弟だった。生まれたとき、王位継承の混乱を避けるため、その存在を、隠されていたのである。

アラミスはこの双子を利用して、壮大な陰謀を企てる。牢獄の兄弟を、本物の国王とすり替え、王位を奪おうというのである。 アラミスは、一時、この入れ替えに成功しかける。

だがこの企ては発覚し、失敗に終わる。 双子の兄弟は、ふたたび捕らえられ、二度と正体が知られぬよう、鉄仮面をかぶせられたまま、幽閉される。陰謀に加担したアラミスとポルトスは、追われる身となる。

追っ手から逃れる途中、ポルトスは、洞窟のなかで、絶体絶命の危機に陥る。仕掛けられた爆薬で、洞窟の天井が、崩れ落ちてくる。巨人のような怪力を持つポルトスは、その崩れる岩を、両腕で支え、仲間を逃がそうとする。だがついに力尽き、岩の下敷きになって、英雄的な死を遂げる。

四人の銃士の運命は次々に閉じられていく。

領地に隠棲していたアトスは、悲恋の末に戦死した息子ラウルの死を知り、後を追うように、静かに息を引き取る。

そして最後に残ったダルタニャンは、長年の功績により、ついに元帥の位を与えられる。だがその栄誉の杖を受け取った、まさにその瞬間、彼は、戦場で、敵の砲弾に倒れる。 元帥の杖を握りしめたまま、ダルタニャンは、息絶える。

青春の輝きに始まり、円熟を経て、老いと死へ。四人の銃士のその全生涯を描き切って、デュマの壮大な三部作は、ここに幕を閉じる。

作者

登場する文学史