スワン家のほうへ

原題
Du côté de chez Swann
作者
マルセル・プルースト
成立
1913
フランス
時代
20世紀以降

概要

十三巻を超える大長篇失われた時を求めての最初の一冊にあたる。これだけを読んでも完結しており、実際そのように読まれることが多い。

三つの部分に分かれる。

「コンブレー」は、語り手が子どものころ夏を過ごした田舎町の記憶である。ここに、紅茶に浸したマドレーヌの味から町全体がよみがえるという場面が置かれる。文学史で最もよく知られた場面の一つにあたる。

「スワンの恋」は、語り手がまだ生まれていない時代の話で、三人称で書かれる。社交界の男が、自分の好みでもない女に取り憑かれ、嫉妬に消耗していく経過を追う。この部分だけを独立した恋愛小説として読むこともできる。

「土地の名——名」は短く、少年期の恋と、行ったことのない土地への憧れを扱う。

出版社に断られ続け、費用の一部を作者が負担して刊行された。

プルーストは1908年ごろから執筆を始めた。当初は評論と小説の中間のような形で構想され、書き進むうちに規模が膨らんだ。

出版社への持ち込みは難航した。ファスケル社、オランドルフ社に断られている。オランドルフの担当者は、七十ページを費やして寝つけないことを書く理由が分からない、という趣旨の返事を書いた。

ガリマール社でも却下された。選考に関わっていたジッドは、プルーストを社交界の遊び人と見ており、原稿をろくに読まなかった。後にジッドはこれを生涯の悔いとして手紙で謝罪している。

結局グラッセ社から、費用の一部を作者が負担する形で1913年11月に刊行された。

刊行時の反響は限られていた。評価が変わるのは1919年で、第二篇失われた時を求めての一部がゴンクール賞を受けてからになる。

文学史における評価と影響

マドレーヌの場面がよく知られる。ただし重要なのは菓子ではなく、思い出そうとして思い出したのではないという点にある。意志で引き出せなかった記憶が、偶然の味覚から丸ごと戻る。プルーストはこれを無意志的記憶と呼び、大長篇全体の鍵に据えた。

「スワンの恋」の部分は、独立した中篇として読まれてきた。ここで書かれる愛は、相手の性質から生じない。スワンはオデットを好みではないと思いながら、失うかもしれないという状態に置かれた途端に離れられなくなる。嫉妬が愛を作る、という構図が示される。この見方は大長篇の後半でも繰り返される。

二つの散歩道も後で効く。市民の道と貴族の道は交わらないものとされるが、大長篇の最終篇で、両家の血を引く娘が現れる。第一篇の細部が最後で回収される構造になっている。

日本では複数の全訳があり、この第一篇だけを収めた文庫も出ている。大長篇を読み始める場合、通常ここから入る。

あらすじ

「コンブレー」。語り手は、長いあいだ早く床についていた、と書き起こす。眠りに落ちる前後の自分がどこにいるか分からなくなる状態が記述される。

そこから子どものころの記憶が出てくる。田舎町コンブレーでの夏。夜、母が寝室に来てキスをしてくれるのを待つ。客が来るとそれがない。ある晩、少年は階段で待ち伏せする。父は意外にも、今夜は母を部屋に泊まらせてやれと言う。少年は望みが叶うが、そのことで両親が自分を諦めたのだと感じる。

大人になったある冬の日、語り手は母の出した紅茶にマドレーヌを浸して口にする。その瞬間、理由の分からない喜びが起こる。二口目、三口目では弱まる。語り手は、これが飲み物の中ではなく自分の中にあると気づき、意識を集中する。

やがてよみがえる。子どものころ、日曜の朝にレオニ叔母の部屋で、同じ紅茶に浸したマドレーヌをもらっていた。その味とともに、叔母の家、町、教会、庭、川、そこにいた人々のすべてが立ち上がる。

以後、コンブレーの記述が続く。散歩には二つの道があった。スワン家のほうとゲルマントのほう。前者は市民の道、後者は貴族の道で、当時は両立しないものと思われていた。

「スワンの恋」。時代は遡り、語り手が生まれる前になる。

シャルル・スワンは裕福な家の出で、教養があり、上流の社交界に出入りしている。フェルメールについての研究を長年始めようとして始めていない。

オデット・ド・クレシーという女と知り合う。最初、スワンはこの女を好みではないと思う。だが、あるとき絵画の人物に似ていると気づいたところから関心が向き始める。

ヴェルデュラン夫人のサロンで、二人はある曲を聴く。ヴァントゥイユのソナタの小楽節と呼ばれる部分で、以後これが二人の関係を指すものになる。

ある夜、スワンは遅れてサロンに行き、オデットがすでに帰った後だと知る。街中を探し回る。見つけたとき、スワンは自分がこの女を必要としていると悟る。

関係が始まると、スワンは嫉妬に苦しむ。オデットの外出を疑い、手紙を透かして読み、召使いに探らせ、夜中に窓を叩く。別の家の窓だったこともある。オデットには複数の相手がおり、女性との関係もある。

やがてスワンは疲れ、関心が薄れていく。最後にこう考える。自分の好みでもない女のために、何年も、生涯で最も大きな愛を費やしてしまった。

(この部分の後、スワンはオデットと結婚する。それは第一篇の末尾で示される。)

「土地の名——名」。少年期の語り手は、行ったことのない土地の名前を口の中で転がし、そこがどんな場所かを想像している。バルベック、フィレンツェ、ヴェネツィア。

パリのシャンゼリゼで、スワンの娘ジルベルトと遊ぶ。淡い恋が始まる。

末尾は数年後の記述になる。語り手が同じ並木道を通ると、様子がすっかり変わっている。場所は残るが、その時の自分はもういない、という認識で第一篇が終わる。

作者

登場する文学史