王妃マルゴ
- 作者
- アレクサンドル・デュマ(大デュマ)
- 成立
- 1845
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
宗教戦争下のフランス宮廷を舞台に、陰謀と愛と虐殺を描いた歴史小説である。
デュマは、三銃士やモンテ・クリスト伯で知られる、歴史冒険小説の巨匠である。この『王妃マルゴ』は、十六世紀、宗教戦争の時代を舞台にした歴史小説にあたる。
物語の背景となるのがサン=バルテルミの虐殺である。一五七二年、カトリックが、プロテスタント(ユグノー)を、パリで大量に虐殺した、凄惨な事件である。この血なまぐさい事件を軸に、物語は展開する。
主人公はカトリックの王女マルグリット(マルゴ)である。彼女は両者の和解のため、プロテスタントの指導者アンリ・ド・ナヴァール(後の国王アンリ四世)と、政略結婚させられる。だがその婚礼の直後に、あの大虐殺が起こる。
宮廷は陰謀の巣窟だった。マルゴの母、権謀術数にたけた王太后カトリーヌ・ド・メディシスが、糸を引いている。マルゴは夫アンリを、危険から守りながら、一方で、若い貴族ラ・モールとの燃えるような恋に落ちる。
宗教対立、宮廷の陰謀、毒殺、そして激しい愛。血と情念にまみれた宮廷を舞台に、めくるめくドラマが展開する、デュマの歴史ロマンにあたる。
文学史における評価と影響
デュマの歴史小説の代表作の一つであり、フランス宗教戦争の時代を鮮やかに描いた作品とされる。
デュマの歴史小説の魅力が、この作品にも凝縮されている。史実の大事件を背景に、生き生きとした人物たちのドラマを織り込む。 サン=バルテルミの虐殺という、実際に起きた凄惨な事件を軸に、宮廷の陰謀と愛のドラマが、めくるめく展開する。
主題は宗教対立の時代の権力と情念である。カトリックとプロテスタントの血で血を洗う対立。その渦中で、権力を求めて策謀する者たちと、それに翻弄されながらも、愛に生きようとする人々。歴史の非情さと、人間の情熱が、鮮烈に対比される。
王太后カトリーヌ・ド・メディシスの造型が名高い。権謀術数の限りを尽くし、毒殺も辞さないこの女性は、悪の魅力に満ちた、忘れがたい人物である。歴史上の実在の人物を、生き生きとした劇的な人物に造り変える、デュマの手腕が光る。
この作品は繰り返し映画化・舞台化されてきた。とりわけ一九九四年のフランス映画(イザベル・アジャーニ主演)は、その華麗で残酷な映像で名高い。 デュマの歴史ロマンの魅力を、今に伝える代表作にあたる。
あらすじ
一五七二年、パリ。フランスはカトリックとプロテスタント(ユグノー)の激しい宗教対立に、引き裂かれていた。
この対立を和らげるため、一つの政略結婚が、取り決められる。カトリックの王女マルグリット(マルゴ)と、プロテスタントの指導者、アンリ・ド・ナヴァールの結婚である。二人の結婚によって、両宗派の和解を、はかろうというのである。
だがこの婚礼は恐ろしい罠だった。婚礼のためにパリに集まった、大勢のプロテスタントを、一挙に虐殺する計画が、進んでいたのである。糸を引くのはマルゴの母、権謀術数にたけた王太后カトリーヌ・ド・メディシスだった。
そして婚礼の数日後の夜、サン=バルテルミの虐殺が、始まる。パリじゅうで、カトリックが、プロテスタントを、無差別に殺戮していく。 街は、血と炎に、包まれる。
この凄惨な夜、王女マルゴは、政略結婚の相手である夫アンリを、憎からず思うようになっていた。彼女は危険にさらされた夫アンリを、機転を利かせて、匿い、守る。 二人は、愛のない政略結婚でありながら、危機を共有する、奇妙な同志となる。
一方マルゴは虐殺の夜、傷ついて逃げてきた、一人の若いプロテスタントの貴族ラ・モールを、助ける。そしてこの美しい青年と、燃えるような恋に落ちる。
宮廷は陰謀の渦だった。王太后カトリーヌはなおもアンリの命を狙い、毒殺までも企てる。王位継承をめぐる争い、貴族たちの裏切り、そして毒を塗った書物による暗殺の計画。血なまぐさい策謀が次々に宮廷を揺るがす。
マルゴは夫アンリの身を守りながら、恋人ラ・モールとの愛を、貫こうとする。だが宮廷の陰謀は二人の愛をも、呑み込んでいく。ラ・モールは、陰謀に巻き込まれ、悲劇的な運命をたどることになる。
宗教対立の非情、宮廷の権謀、そしてその渦中で燃え上がる激しい愛。血と情念にまみれた宮廷絵巻を、デュマは、めくるめく筆致で描き切って、この歴史ロマンを閉じる。