ウィリアム・サッカレー

丸眼鏡をかけ、白髪のサッカレーを写した銀板写真。装飾された額に収められている。
ホイットハースト撮影
原綴
William Makepeace Thackeray
生没
1811–1863
出身
インド・カルカッタ
イギリス
時代
ヴィクトリア朝

生涯

1811年、当時イギリスの支配下にあったインドのカルカッタに、東インド会社に勤める役人の子として生まれた。幼くしてイギリスに送られ、教育を受けた。青年期に相続した財産を、賭博や事業の失敗で失い、みずから働いて生計を立てねばならなくなった。

はじめは、新聞や雑誌に、諷刺的な文章や絵を寄稿するジャーナリストとして活動した。挿絵を自分で描く才能もあった。この諷刺の目が、後の小説の作風を形づくった。

1847年から連載した『虚栄の市』の成功によって、一流の小説家としての地位を確立した。以後、ディケンズと並び称される、ヴィクトリア朝の代表的な作家となった。晩年は、講演や雑誌の編集にも活動を広げた。1863年に没した。

作風

サッカレーの小説の身上は、上流社会への、冷ややかな諷刺にある。華やかな社交界の裏にある、見栄、俗物根性、金と地位への執着を、鋭く暴き出す。人間の弱さや虚栄を、感傷を排した醒めた目で見つめる。この諷刺の精神が、サッカレーの文学の核心である。

代表作『虚栄の市』には、「主人公のいない小説」という副題がつく。これは、称賛すべき理想的な人物を主人公に据えない、という宣言である。登場するのは、善人も悪人も、みな欠点をもった、等身大の人間である。とりわけ、機知と美貌を武器に社交界をのし上がろうとする、野心的な女性ベッキー・シャープは、忘れがたい造形である。

語り手が、しばしば物語に介入する。作者を思わせる語り手が、登場人物のふるまいに、皮肉やコメントを加える。この、一歩引いた位置から人間の営みを眺める視線が、サッカレーの小説に、独特の醒めた味わいを与えている。感傷的になりがちなヴィクトリア朝小説のなかで、その冷静さは際立っていた。

作品

『虚栄の市(Vanity Fair)』(1847-1848年)

ナポレオン戦争の時代を背景に、対照的な二人の女性の生涯を軸に、上流社会の虚栄を描いた長篇である。野心家のベッキー・シャープと、善良なアメリアという二人を通して、社交界の見栄と俗物根性を諷刺した。「主人公のいない小説」という副題をもつ、サッカレーの代表作にあたる。

歴史小説『ヘンリー・エズモンド』は、十八世紀初頭を舞台に、当時の社会と人間を精緻に再現した作品として評価されている。

文学史における立ち位置と影響

サッカレーは、ディケンズと並ぶ、ヴィクトリア朝を代表する小説家として文学史に名を残す。感傷や理想化を排し、人間の虚栄と弱さを、冷静な諷刺の目で描いた点に、その独自性がある。

ディケンズが、豊かな感情と、善悪のはっきりした人物を描いたのに対し、サッカレーは、善悪の入りまじった等身大の人間を、醒めた目で見つめた。二人は、しばしばヴィクトリア朝小説の二つの極として対比される。

理想的な主人公を立てず、欠点をもつ人間をありのままに描くその手法は、後の写実的な小説へと通じている。社会と人間を、皮肉をこめて観察するその精神は、イギリス小説の諷刺の伝統を代表するものとされている。

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