W・H・オーデン
- 原綴
- W. H. Auden
- 生没
- 1907–1973
- 出身
- ヨークシャー州ヨーク
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1907年、イングランド北部のヨークに、医師の子として生まれた。オックスフォード大学に学び、在学中から詩才を発揮した。1930年代、世界恐慌とファシズムの台頭という時代の危機のなかで、社会に関わる詩を書く若い詩人たちの中心となった。この世代は「オーデン・グループ」とも呼ばれた。
ファシズムと戦うスペイン内戦に、共感を寄せて関わった。だが、政治への期待は、しだいに幻滅へと変わっていった。第二次大戦が始まる直前、オーデンはアメリカに移住した。この移住は、母国では、危機からの逃避と見られ、批判もされた。
アメリカでは、キリスト教信仰へと回帰した。以後、政治的な主題から離れ、より内面的で、宗教的・哲学的な詩を書くようになった。アメリカとヨーロッパを行き来しながら創作を続け、1973年、ウィーンで没した。
作風
オーデンの詩の際立った特徴は、その技巧の多彩さにある。古い民謡の形式から、現代的な自由詩まで、あらゆる詩形を自在に使いこなした。深刻な主題も、軽妙な調子も、思いのままに操る。この、詩の技術における卓越した才能が、オーデンの大きな武器だった。
前半生の詩は、時代の危機を鋭くとらえた。恐慌、失業、迫りくる戦争。崩れゆく社会の不安を、明晰で、時に不気味なイメージによってうたった。詩「一九三九年九月一日」は、第二次大戦が始まった日の、暗い時代の空気を刻んでいる。
一方で、個人的な愛や喪失をうたった詩も、深く愛されている。恋人の死を悼む「葬送のブルース」は、悲しみをこの上なく率直に表現した詩として、広く知られる。社会と個人、公的な危機と私的な感情の両方を、明晰な言葉でとらえた点に、オーデンの幅広さがある。
作品
詩「一九三九年九月一日(September 1, 1939)」
第二次大戦が勃発した日の心境をうたった詩である。「低劣で不誠実な十年」が終わり、暗い時代が始まる不安を、ニューヨークの酒場から見つめた。危機の時代を代弁する詩として名高い。
詩「葬送のブルース(Funeral Blues)」
愛する人の死を悼む詩である。「時計をすべて止めてしまえ」と始まり、世界のすべてが失われたかのような悲しみを、率直な言葉でうたう。オーデンの最も広く愛される詩の一つにあたる。
古代の楯を描いた「アキレスの盾」など、思索的な詩も多く残している。
文学史における立ち位置と影響
オーデンは、1930年代のイギリス詩を代表する詩人として文学史に名を残す。時代の危機に向き合い、詩によって社会を語ろうとしたその世代の、中心的な存在だった。文学と政治の関係を、みずからの詩と生き方によって、鋭く問うた。
技巧の面での影響も大きい。あらゆる詩形を自在に操るその手腕は、後の詩人にとって、一つの手本となった。深刻さと軽妙さ、公的な主題と私的な感情を、明晰な言葉で結びつける方法は、二十世紀の英語詩に、広く受け継がれた。
政治への傾倒から、信仰への回帰へという、その生涯の歩みそのものが、二十世紀の知識人が、時代とどう向き合ったかを映している。多彩さと明晰さをあわせもつ、稀有な詩人とされている。