新生

作者
島崎藤村
成立
1918-1919
日本
時代
近代

概要

姪との過ちと、その罪の苦悩からの再生を、赤裸々に告白した私小説である。

島崎藤村は、破戒夜明け前で知られる、近代日本の代表的な作家である。だがこの『新生』は、藤村自身の実際の秘めた過ちを題材にした、告白の小説にあたる。

主人公の作家岸本捨吉は、妻に先立たれ、幼い子を抱えて、姪の節子に、家事を手伝ってもらっていた。そのうちに、岸本は、若い姪と、道ならぬ関係を持ってしまう。 節子は、身ごもる。

岸本はこの過ちに、深く苦しむ。世間に知られれば、破滅である。罪の意識と、発覚への恐れに耐えかねた岸本は、逃げるように、単身、フランスへ渡る。

数年のフランス滞在の後、帰国した岸本は、なお節子との問題を抱え続ける。そして最後、岸本は、この関係のすべてを、小説として書いて公表することを決意する。 それによって、罪から逃れるのではなく、罪を引き受け、「新生」——新しく生き直すことを、選ぼうとする。

だがこの結末は告白によって自分は救われても、姪の節子を、いっそう世間にさらすことになる。 その身勝手さも含めて、罪と告白をめぐる、痛切な作品にあたる。

文学史における評価と影響

島崎藤村の最も赤裸々な私小説であり、日本の告白文学の一つの極点とされる。

この作品の衝撃は藤村自身の実際のスキャンダルを、そのまま小説にした点にある。藤村は現実に、姪と関係を持ち、その子を産ませていた。その秘密を、藤村は、この小説で、自ら世間に暴露した。 私小説の「告白」が、これほど生々しく、危険な形をとった例は、まれである。

主題は罪と、告白による再生である。岸本は犯した過ちの苦悩から逃れようとして、フランスへ逃げる。だが逃げても罪は消えない。最後に岸本はすべてを書いて公表することで、罪を引き受け、新しく生き直そうとする。 「新生」という題はその再生への願いを表す。

一方この告白の身勝手さが、鋭く批判されてきた。岸本(藤村)は、告白によって、自分は精神的な救済を得る。だがその告白は相手である姪を、世間の好奇の目にさらし、より深く傷つける。 「自分だけが救われる告白」の欺瞞を、この作品ははからずも露呈している。

芥川龍之介はこの作品を「老獪な偽善者」の告白だと、痛烈に批判した。告白文学の光と影の両面を、これほど鮮明に示した作品はない。 私小説という日本近代文学の特質を考えるうえで、避けて通れない一作にあたる。

あらすじ

作家の岸本捨吉は妻を亡くし、幼い子どもたちを抱えて、暮らしていた。手が回らぬ家事を助けるため、岸本は、兄の娘、すなわち姪の節子を、家に手伝いに来させていた。

節子は若く、聡明な娘だった。やもめ暮らしの岸本と、若い姪。二人きりの時間を重ねるうちに、岸本は、この姪と、道ならぬ関係を持ってしまう。

そして節子は岸本の子を、身ごもる。

岸本は恐怖と罪の意識に、打ちのめされる。叔父と姪の関係。それが世間に知られれば、身の破滅は避けられない。岸本はこの事態から逃げ出すように、単身、はるばるフランスへと渡る決意をする。 節子との問題を、日本に残したまま、岸本は、逃避の旅に出る。

数年に及ぶ、フランスでの滞在。だが遠い異国にいても岸本の心から、罪の意識が消えることはない。 節子への思いと、犯した過ちへの苦悩は、岸本を苛み続ける。

やがて第一次世界大戦の勃発もあり、岸本は、日本へ帰国する。

帰ってみれば、節子との問題は、なお解決していなかった。節子は成長し、岸本への思いを、断ちきれずにいた。 二人の関係は、ふたたび危うい形で続いていく。

苦悩の果てに、岸本は、一つの重大な決意をする。この姪との関係のすべてを、包み隠さず小説として書き、世間に公表しよう、というのである。

それは罪から逃げることをやめ、罪を引き受けるという決断だった。告白することによって、岸本は、古い自分を捨て、「新生」——新しく生き直すことを、目指そうとする。

だがこの告白は岸本自身を、精神的に救うものではあっても、告白される側の節子を、世間の好奇の目に、いっそう深くさらすことになる。

罪の告白による、自分の再生。その願いと、告白がはらむ身勝手さの両方を抱えて、この痛切な私小説は、閉じられる。

作者

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