猿蓑

作者
松尾芭蕉
成立
1691
日本
時代
近世

概要

松尾芭蕉の指導のもと、門人の去来(きょらい)と凡兆(ぼんちょう)が編んだ俳諧の撰集である。全六巻。発句(五・七・五の独立した句)を季節ごとに集めた部分と、複数人で句を連ねた歌仙(三十六句からなる連句)を収めた部分からなる。

書名は、芭蕉の句「初しぐれ猿も小蓑をほしげなり」に由来する。初冬の時雨に打たれる猿も、小さな蓑を欲しがっているように見える、という句である。

芭蕉の俳諧が最も充実した時期の成果を集めており、蕉風(芭蕉の一門の作風)の到達点とされる。編纂には芭蕉自身が深く関わり、選や配列に意向が反映されている。

文学史における評価と影響

「俳諧の古今集」と呼ばれ、芭蕉の一門の代表的な撰集と位置づけられる。古今和歌集が和歌の規範となったように、この集が俳諧の規範となった、という意味である。

ここで示された作風は「さび」「しをり」「細み」といった言葉で語られる。派手な趣向や機知ではなく、対象に静かに寄り添い、そこに漂う情趣を掬い取る。俳諧を、言葉遊びから芸術へ引き上げた到達点として重んじられてきた。

収められた歌仙は、複数人で句を連ねていく連句の実例としても価値が高い。前の句をどう受け、どう転じるか——以来の付合の技術が、芭蕉一門の水準で示されている。

内容

発句の部は冬・夏・秋・春の順に並ぶ。芭蕉の「初しぐれ猿も小蓑をほしげなり」に始まり、門人たちの句が続く。

編者の一人である凡兆の「市中は物のにほひや夏の月」など、都市の生活を捉えた句も入る。其角をはじめ、蕉門の主だった俳人が名を連ねている。

歌仙の部には「市中は」を発句とする巻など四巻が収められ、芭蕉・去来・凡兆らが句を付け合う実際を読むことができる。巻末には、芭蕉が近江の幻住庵での暮らしを記した「幻住庵記」が置かれている。

作者

登場する文学史