アンティゴネ

原題
Antigone
作者
ソポクレス
成立
前441頃
ギリシャ
時代
古典期

概要

前441年頃にアテナイで上演された悲劇である。作者はソポクレス。テバイを舞台とする三作のうち、最も早く書かれた。物語の時系列ではオイディプス王の後にあたる。

オイディプスの二人の息子が、王位をめぐって戦い、相討ちで死んだ直後から劇は始まる。新たに王となったクレオンは、都を守って死んだエテオクレスを国葬とし、他国の軍を率いて攻めてきたポリュネイケスの埋葬を禁じ、破った者を死刑にすると布告する。妹アンティゴネは、この布告に背いて兄に土をかける。

争点は明確である。クレオンは国家の法を、アンティゴネは神々の掟と血縁の義務を根拠にする。どちらも自分の側の理を持っており、劇はどちらかを正しいと断定しない。 両者とも譲らず、その結果、双方が破滅する。

登場人物は少なく、場面は王宮の前から動かない。上演時間は二時間ほどである。

前441年頃の上演と推定される。この作品の成功により、ソポクレスがサモス遠征の将軍に選ばれたという伝承があるが、後世の記録によるもので信憑性は高くない。

テバイを舞台とする三作は、三部作として一度に上演されたものではない。この作品が最も早く、オイディプス王は十年以上あと、『コロノスのオイディプス』はソポクレスの死後の上演である。物語の時系列とは逆の順に書かれている。

素材はテバイの伝説群にある。オイディプスの息子たちの争いは、アイスキュロスの『テバイ攻めの七将』でも扱われている。ただしアンティゴネが法に背いて兄を葬るという筋は、ソポクレス以前の伝承には確認されておらず、この作家の創案とみる説が有力である。

埋葬の禁止は、当時のギリシア人にとって重い意味を持っていた。葬られない死者は冥界に入れず、さまよい続けると考えられており、遺体の放置は宗教的な穢れを生む行為だった。クレオンの布告は、単に厳しい処罰ではなく、神々の領域を侵す命令として受け取られる。

文学史における評価と影響

国家の法と、それより上位にあるとされる規範との衝突を扱った最初期の作品にあたる。この対立は、以後の政治思想と文学で繰り返し扱われてきた。悪法に従う義務があるか、良心にもとづく不服従は正当か。アンティゴネの名は、この問いそのものの代名詞になっている。

読みの重心は時代とともに移ってきた。ヘーゲルはこの劇を、どちらも正当な二つの倫理——家族と国家——が衝突する形として論じ、一方が悪いのではないと述べた。この解釈は19世紀を通じて影響力を持った。20世紀に入ると、抵抗する個人の側に重心を置く読みが増える。ナチス占領下のパリで、ジャン・アヌイの翻案が1944年に上演されたことはよく知られており、権力の側からも抵抗の側からも自陣に引きつけて解釈された。

クレオンの造形も、単純な暴君ではない。国を守るという動機は本物であり、市民の意見にも耳を貸そうとする場面がある。判断を改めたときには手遅れだった、という形で破滅する。この点で、劇は権力そのものではなく、譲らないという態度を扱っているとも読める。

作中の合唱歌の一つは、人間の能力を数え上げる内容で知られる。海を渡り、大地を耕し、獣を馴らし、言葉と国家を作った人間は、多くのものの中で最も恐るべきものだ、という趣旨の歌である。この一節は、人間の技術と傲慢をめぐる議論で繰り返し引用されてきた。

翻案は数多い。アヌイ、ブレヒト、ゼイディー・スミスをはじめ、各国で書き直され続けている。日本でも新劇の演目として上演が重ねられ、複数の訳が読める。

あらすじ

夜明け前、アンティゴネは妹イスメネに、兄ポリュネイケスを葬る計画を打ち明ける。イスメネは、女の身で国法に逆らうことはできないと言って断る。アンティゴネは一人で行う。

クレオンが登場し、国を第一に置く統治の方針を述べ、布告を確認する。そこへ見張りの兵が来て、遺体に薄く土がかけられていたと報告する。クレオンは激怒し、犯人を捕らえるよう命じる。

土が払われた遺体のそばに、アンティゴネが再び現れて捕らえられる。クレオンの前に引き出されたアンティゴネは、行為を認める。あなたの布告は人間の作ったものにすぎず、神々の定めた不文の掟を覆すことはできないと述べる。クレオンは、身内であっても容赦しないと言い、死刑を宣告する。イスメネが共犯を申し出るが、アンティゴネは拒む。

クレオンの息子ハイモンが来る。アンティゴネの婚約者である。最初は父に従う姿勢を見せ、次第に議論に入る。市民は密かにアンティゴネに同情していると伝え、一人の判断だけで国を治めることはできないと説く。クレオンは、国は支配者のものだと答える。口論は決裂し、ハイモンは去る。

クレオンは処刑の方法を変える。血を流せば都が穢れるため、アンティゴネを岩窟に閉じ込め、わずかな食料を置いて封じることにする。連行されるアンティゴネは、婚礼も子も持たずに死ぬことを嘆く。

盲目の予言者テイレシアスが現れる。祭壇の火が燃えず、鳥が凶兆を示すと告げ、遺体を葬らずに置いたことが原因だと言う。過ちを認めて改めるよう勧めるが、クレオンはこれも買収されての讒言だと決めつける。テイレシアスは、その報いに自分の血族の一人を失うと予言して去る。

長老たちに説得され、クレオンはようやく折れる。まず遺体を葬り、それから岩窟へ向かう。だがアンティゴネはすでに首を吊っていた。ハイモンはその亡骸を抱いており、父を見ると剣で襲いかかり、外して自ら胸を刺す。知らせを聞いたクレオンの妻エウリュディケも、宮殿の中で自害する。すべてを失ったクレオンが、自分を連れ去ってくれと嘆くところで劇は終わる。

作者

登場する文学史