ニコス・カザンザキス

原綴
Nikos Kazantzakis
生没
1883–1957
出身
クレタ島イラクリオン
ギリシャ
時代
近代・現代

生涯

1883年、地中海のクレタ島に生まれた。当時、クレタはオスマン帝国の支配下にあり、ギリシャ人の独立を求める闘いのただなかにあった。この故郷の、自由をめぐる激しい闘争の記憶が、その文学の背景をなす。

アテネで法律を学んだのち、パリで哲学を学んだ。生涯を通じて世界各地を旅し、さまざまな思想と宗教を遍歴した。仏教、キリスト教、共産主義、ニーチェの哲学。そうした思想のあいだを、たえず揺れ動きながら、みずからの生の意味を問い続けた。

小説、詩、戯曲、紀行と、多彩な作品を書いた。だが、その大胆な宗教観のため、ギリシャ正教会と激しく対立した。作品が禁書とされたこともある。晩年、ノーベル文学賞の候補に何度も挙がった。1957年、ドイツで没した。教会との対立から、故郷クレタでの埋葬をめぐっても、ひと悶着があった。

作風

カザンザキスの文学の中心にあるのは、精神と肉体の、絶え間ない闘いである。神へ向かおうとする魂と、大地に根ざした肉体の欲望。この二つの引き裂かれた力のあいだで、人間はいかに生きるべきか。カザンザキスは、生涯この問いと格闘した。

その答えとして描かれるのが、生への激しい情熱である。頭で考えるより、全身で生きること。代表作『その男ゾルバ』の主人公ゾルバは、踊り、食べ、愛し、大地とともに生きる男である。書物のなかで生きてきた知識人の「私」は、このゾルバから、頭ではなく体で生きることの豊かさを教わる。

宗教への、大胆な問い直しも特徴である。信仰を、安らかな慰めとしてではなく、魂の激しい闘いとしてとらえた。神に反逆しながら神を求める、その矛盾に満ちた探究が、しばしば正統な信仰と衝突した。だがその根には、つねに、生と超越への、やむにやまれぬ渇望がある。

作品

『その男ゾルバ(Vios kai politeia tou Alexi Zorba)』(1946年)

知識人の「私」と、奔放に生きる労働者ゾルバとの交流を描いた小説である。クレタ島で炭鉱の事業を試みる二人を通して、頭で生きる者と、体で生きる者を対比させた。生の歓びを全身で体現するゾルバの姿は、カザンザキスの理想を示している。世界的に読まれ、映画化もされた代表作にあたる。

『最後の誘惑(O teleftaios peirasmos)』(1955年)

イエス・キリストを、神と人間のあいだで葛藤する存在として描いた小説である。その大胆な解釈は、教会から激しい非難を浴び、禁書とされた。

『オデュッセイア』は、ホメロスの英雄のその後を描いた大作で、カザンザキスの畢生の仕事とされる。

文学史における立ち位置と影響

精神と肉体の闘い、信仰と反逆という普遍的な主題を、地中海の風土に根ざした力強い物語として描く。ここにカザンザキスの独自性がある。近代ギリシャを代表する小説家である。

とりわけ『その男ゾルバ』は、頭でっかちな近代人に、体で生きることの豊かさを説く物語として、国境を越えて広く愛された。ゾルバという人物像は、生の情熱の象徴として、世界の読者の記憶に刻まれている。

宗教をめぐる大胆な探究は、生前、教会との激しい対立を招いた。だがその、安易な慰めを拒み、魂の闘いとして信仰を問い続ける姿勢は、二十世紀の宗教文学に、忘れがたい問いを残した。ギリシャの精神を、現代に体現した作家とされている。

作品

登場する文学史