エルンスト・トラー

- 原綴
- Ernst Toller
- 生没
- 1893–1939
- 出身
- ザモチン(当時ドイツ領・現ポーランド)
- 国
- ドイツ
- 時代
- 20世紀前半
生涯
1893年、当時ドイツ領だったポーゼン地方のザモチンに生まれた。ユダヤ系の家である。第一次大戦に志願して従軍したが、戦場の悲惨を目の当たりにして反戦へ転じた。健康を損ねて除隊し、以後は反戦と革命の運動に加わる。
1919年、敗戦後の混乱のなかで、南ドイツにごく短命の革命政権「バイエルン・レーテ共和国」が生まれた。労働者・兵士の評議会(レーテ)による政権である。トラーはこれに深く関わり、一時は指導的な立場に立った。政権は数週間で軍に鎮圧され、トラーは捕らえられて五年の禁錮刑を受ける。
主要な戯曲は、この獄中で書かれた。刑期を終えて出所した後も執筆を続けたが、1933年にナチスが政権を取ると、ユダヤ系で左翼の劇作家であるトラーは真っ先に標的になった。著作は焚書にされ、国籍を奪われる。亡命の末、1939年、ニューヨークのホテルで自死した。四十五歳だった。
作風
トラーの戯曲は、革命の理想と、その現実の断絶を扱う。世界を変えようとする者が、暴力に手を染めざるを得なくなる。理想のために人を殺すことが許されるのか。この問いが、繰り返し中心に置かれる。自らが革命に加わり、その挫折を身をもって知った経験が、そのまま主題になっている。
表現主義の様式で書かれている。人物はしばしば型で呼ばれ、台詞は切り詰められ、叫びに近い。個人の心理より、時代と社会の状況が前に出る。夢や幻の場面が現実の場面に割り込むこともある。
『群集=人間』では、革命を指導する女が、暴力を拒みながら運動に巻き込まれ、最後に処刑される。大衆の暴力と、非暴力の理想とのあいだで引き裂かれる姿が描かれる。理想を掲げた者が、その理想の実現の過程で敗れていく、という構図である。
初期作『変転』は、戦争体験から反戦・革命へ目覚めていく青年を、夢と現実を交錯させて描いた。作者自身の精神の変化が下敷きにある。
作品
『変転(Die Wandlung)』(1919年)は、戦争から革命へ向かう青年の目覚めを描く。表現主義演劇の代表作の一つとされる。
『群集=人間(Masse Mensch)』(1920年)は、獄中で書かれた。革命における暴力と非暴力の対立を扱う。
『機械破壊者(Die Maschinenstürmer)』(1922年)は、19世紀イギリスで機械を打ち壊した労働者たち(ラッダイト)を題材に、産業化と労働者の反乱を描く。
自伝『ドイツの青春(Eine Jugend in Deutschland)』も残した。革命と投獄の体験を記録したものである。
日本語では戯曲の抄訳がある。
文学史における立ち位置と影響
カイザーと並ぶ、表現主義演劇の代表的な劇作家とされる。ただし性格は違う。カイザーが金と機械の社会一般を扱ったのに対し、トラーはより直接に、革命という具体的な政治の経験を舞台に上げた。
政治と文学が一体になった作家として記憶されている。革命に身を投じ、投獄され、亡命し、自死する。その生涯そのものが、20世紀前半のドイツの左翼知識人の運命を象徴するものとして語られてきた。作品と生き方が切り離せない点で、際立った存在である。
理想の挫折を書いた点が、後の政治的な演劇に受け継がれた。革命が暴力を必要とするとき、掲げた理想はどうなるのか。この問いは、ブレヒトをはじめ、次の世代の政治劇にも引き継がれている。
日本での受容は、表現主義演劇とプロレタリア演劇への関心のなかで進んだ。