娘時代
- 作者
- シモーヌ・ド・ボーヴォワール
- 成立
- 1958
- 国
- フランス
- 時代
- 20世紀以降
概要
ブルジョワの家庭に育った少女が、因習を脱し、自立した知識人へと成長する自伝である。
ボーヴォワールは、第二の性で女性の状況を分析した思想家である。この『娘時代』は、その彼女が、自らの生い立ちを回想した、自伝四部作の第一部にあたる。
ボーヴォワールはパリの敬虔なカトリックのブルジョワ家庭に生まれた。幼い頃は信仰篤く、家庭の価値観に忠実な少女だった。 だが成長するにつれ、彼女は、その世界に疑問を抱き始める。
やがて少女は信仰を失う。そして女性は結婚して家庭に入るべきだ、という、ブルジョワ社会の因習にも、反発するようになる。彼女は本を読み、考え、自分自身の頭で生きることを望むようになる。
自伝には少女時代の親友ザザとの深い友情も、描かれる。だがそのザザは因習的な家庭の圧力に苦しみ、若くして、悲劇的な死を遂げる。ザザの死はボーヴォワールに女性を縛る社会の抑圧を痛切に突きつけた。
そして大学で彼女は、生涯の伴侶となる、サルトルと出会う。信仰と因習の世界を抜け出し、自立した知識人として生きる道を選び取っていく、その成長の記録である。
文学史における評価と影響
ボーヴォワールの自伝の第一部であり、二十世紀を代表する知識人女性の形成の記録とされる。
この自伝の意義は一人の女性が、いかにして、因習から自立したかを内側から描いた点にある。ボーヴォワールは敬虔なカトリックのブルジョワ家庭に生まれ、そこで期待される、良妻賢母への道を拒んだ。信仰を捨て、結婚による安定を退け、自分の思想によって生きることを選んだ。 その自己形成の過程が、こまやかに描かれる。
第二の性との関わりが深い。ボーヴォワールは第二の性で「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」と論じた。この自伝はまさに彼女自身が、社会の期待する「女」に、いかに「されそうになり」、そしてそれにいかに抗ったかの実例である。 思想の背後にある、体験が、ここにある。
親友ザザの死が作品に深い陰翳を与えている。才能ある少女ザザが因習的な家庭の圧力によって、押し潰され、命を落とす。その悲劇はボーヴォワールの生涯を貫く、女性の解放という主題の原点となった。
自立した女性の青春の記録として、また二十世紀フランスの知識人の形成史として、この自伝は、広く読み継がれてきた。
内容
『娘時代』はボーヴォワールが、自らの生い立ちから青年期までを回想した、自伝である。
ボーヴォワールはパリの敬虔なカトリックのブルジョワ家庭に生まれた。幼い頃の彼女は信仰篤く、両親を敬い、家庭の価値観を素直に信じる少女だった。知的で勉強がよくでき、周囲の期待を一身に集めていた。
だが成長するにつれ、彼女の内に疑問が、芽生えていく。
思春期を迎えたある時、彼女は、神への信仰を失う。 それは、静かだが決定的な、内面の出来事だった。神なしに自分は、いかに生きるべきか。彼女はその問いと一人で向き合い始める。
同時に彼女はブルジョワ社会の因習に反発するようになる。当時の社会では女性はしかるべき相手と結婚し、家庭に入り、良き妻、良き母となることが、当然とされていた。だがボーヴォワールはそのあらかじめ定められた道を拒む。 彼女は、本を読み、哲学を学び、自分自身の頭で考え、自立して生きることを望むようになる。
自伝の忘れがたい部分が、親友ザザとの友情である。ザザは聡明で魅力的な少女だった。ボーヴォワールは彼女と深く心を通わせた。
だがそのザザは因習的な家庭の重い圧力に苦しめられる。親の決めた結婚と自分の望む生き方とのあいだで引き裂かれ、追い詰められた彼女は、若くして、病により悲劇的な死を遂げる。ザザの死はボーヴォワールに女性を縛りつける社会の抑圧が、いかに残酷なものかを痛切に突きつけた。
やがてボーヴォワールは、パリの大学(ソルボンヌ)で哲学を学ぶ。そしてそこで生涯の思想的・人生的な伴侶となる、若きジャン=ポール・サルトルと出会う。対等に思想を語り合える相手との出会いは、彼女の自立した知識人としての人生を決定づける。
敬虔な信仰とブルジョワの因習に囲まれた世界に生まれた少女が、その世界を抜け出し、自らの思想によって生きる、自立した知識人へと成長していく。その自己形成の道のりをこまやかに描いて、この自伝は、次の巻へと続いていく。