守銭奴
- 原題
- L'Avare
- 作者
- モリエール
- 成立
- 1668
- 国
- フランス
- 時代
- 17世紀
概要
1668年9月に初演された五幕の喜劇である。散文で書かれている。当時、格の高い劇は韻文で書くのが規則で、散文の五幕物は例外にあたる。
主人公アルパゴンは六十歳ほどの金貸しである。相当な財産を持ちながら、家では馬に餌をやらず、使用人の給金を出し渋り、蝋燭の数を数えている。庭に一万エキュの入った箱を埋めており、それが盗まれることを絶えず恐れている。
筋は結婚をめぐって動く。息子クレアントと娘エリーズには、それぞれ相手がいる。アルパゴンは、金のかからない縁組を勝手に決める。そのうえ、息子が想っている娘を自分の後妻にしようとする。
素材は古代ローマの喜劇による。プラウトゥスの『黄金の壺』で、これも壺に入った金を隠す老人の話である。
素材はプラウトゥスの『黄金の壺』にあたる。壺に金を隠す老人ユークリオが登場し、盗まれて嘆く場面がある。モリエールはこの筋に、子どもたちの結婚をめぐる複数の線を加えた。
初演の興行は振るわなかった。散文であることが理由の一つとされる。当時の観客は、五幕の劇は韻文であるべきだと考えており、散文は格が低いとみなされた。
高利貸しの場面も問題になった。当時の教会法では、キリスト教徒が利息を取ることは禁じられている。作中でアルパゴンが要求する利率は、当時の法定上限を大きく超える設定になっている。
作品が定着するのは18世紀以降で、以後はモリエールの代表作の一つとして扱われるようになった。
文学史における評価と影響
一つの観念に取り憑かれた人物を中心に置く型が、この作品にはっきり現れている。タルチュフのオルゴンは信心に、病は気からのアルガンは病に取り憑かれている。アルパゴンの場合は金である。
その執着が家族関係を壊していく過程が筋になる。息子に高利で金を貸し、息子の想う相手を自分が娶ろうとし、娘を持参金なしで嫁がせようとする。金の勘定が、あらゆる関係の基準になる。
金庫の場面は、演劇史でよく取り上げられる。舞台上で一人になったアルパゴンが、自分の腕をつかんで泥棒を捕まえたと言い、次に客席に向かって語りかける。舞台と客席の境目を越える演出で、当時としては異例だった。
結末の扱いも指摘される。アルパゴンは何も改まらない。子どもたちの結婚を認めるのは、箱が戻る条件としてであり、費用は他人が出す。最後の台詞も箱に向けられる。悪癖が矯正されずに終わる点は、モリエールの他の作品と共通する。
なお日本語の訳題は複数ある。「守銭奴」のほか「けちんぼ」「吝嗇家」などが使われてきた。原題は「吝嗇な者」を意味する語である。
あらすじ
第一幕。エリーズと、家の執事として働いているヴァレールが、互いを想っている。ヴァレールは身分を隠しており、エリーズに近づくために雇われた。
兄クレアントは、近所に越してきたマリアーヌという娘を想っている。母と二人で貧しく暮らしている。
父アルパゴンが現れる。使用人ラ・フレーシュを疑い、身体検査をする。手を見せろと言い、他の手も見せろと言う。
アルパゴンは子どもたちに縁組を告げる。エリーズは五十歳のアンセルムに嫁がせる。持参金を要求しない相手だからである。クレアントには年上の未亡人。そして自分はマリアーヌと結婚する。
クレアントは相手が誰か知って絶句する。
第二幕。クレアントは金に困り、仲介人を通して高利の借金をしようとしている。条件を聞くと、法外な利息のうえ、貸付額の一部が中古の家具で支払われる。相手が誰かを確かめると、貸主は父アルパゴンだった。二人は互いに罵り合う。
第三幕。マリアーヌを招く晩餐の準備が始まる。アルパゴンは料理人に、金をかけずに満腹にさせる方法を求める。馬車を出すため、御者と料理人を兼ねている使用人が、両方の服を着替えながら応対する。
マリアーヌが来る。相手がアルパゴンだと知って動揺する。クレアントが同席し、父の言葉として愛の言葉を代弁するふりをしながら、自分の気持ちを伝える。さらにアルパゴンの指輪をマリアーヌに渡してしまう。
第四幕。クレアントが父に、マリアーヌをどう思うかと尋ねる。アルパゴンは、諦めてもよいと言ってみせる。クレアントは安心して自分の気持ちを打ち明ける。それが罠だった。アルパゴンは息子を勘当する。
同じころ、ラ・フレーシュが庭の箱を掘り出して持ち去る。
アルパゴンが気づく。舞台で一人になり、泥棒、と叫ぶ。自分の腕をつかんで泥棒を捕まえたと言い、それが自分だと気づく。客席に向かって、この中に犯人がいるのではないかと言い、全員を絞首刑にすると宣言する。金がなければ生きていけない、自分は死んだ、と繰り返す。
第五幕。取り調べが始まる。ヴァレールが呼ばれる。ヴァレールは、エリーズとの関係を問われていると誤解し、二人が愛し合っていることを告白する。アルパゴンは金の話をしており、話が噛み合わない。
そこへアンセルムが来る。ヴァレールとマリアーヌの話を聞くうち、事実が明らかになる。二人は兄妹で、アンセルムはその父だった。十六年前、ナポリを追われて海難に遭い、家族が散り散りになっていた。
アンセルムは、二組の結婚の費用をすべて負担すると申し出る。
アルパゴンは、それでも金を出すことを拒む。条件は一つだけ、箱が戻ることである。クレアントが交渉し、マリアーヌとの結婚を認めるなら返す、と持ちかける。アルパゴンは承知する。
全員が去る。アルパゴンは、自分の大切な箱に会いに行く、と言って舞台を出る。