わが生涯の記
- 作者
- ジョルジュ・サンド
- 成立
- 1855
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
男装し、自由に生きた女性作家が、その波乱の生涯を回想した自伝である。
ジョルジュ・サンドは、本名をオーロール・デュパンといい、十九世紀フランスで、最も有名な女性作家だった。男の筆名で作品を発表し、男装して社交界を歩き、恋愛の自由を貫いた彼女は、当時の女性の枠を、大きく踏み越えた存在だった。 この『わが生涯の記』は、その彼女が、自らの生涯を語った自伝にあたる。
自伝はまずサンドの家系と、幼年期を、丹念にたどる。貴族の血を引く父方と、庶民の出である母方。その二つの世界のあいだで育った、少女時代。とりわけ彼女を育てた祖母との深い関わりが、こまやかに描かれる。
やがてサンドは若くして結婚するが、その結婚生活に、満たされない。彼女は夫のもとを離れ、パリへ出て、文筆で身を立てる道を、選ぶ。 自立した一人の作家として、生きることを、決意したのである。
自伝には彼女が関わった、多くの著名な芸術家たちも、登場する。恋人だった詩人ミュッセや、音楽家ショパンとの恋。そして同時代の作家や思想家たちとの交流。十九世紀フランスの豊かな文化の証言でもある。
文学史における評価と影響
ジョルジュ・サンドの自伝であり、十九世紀フランスの自立した女性の生き方を伝える、貴重な記録とされる。
この自伝の意義は当時の女性としては、破格の生き方をした人物の自己証言である点にある。サンドは男装し、恋愛の自由を生き、文筆で自立した。その時代の常識に縛られない生き方の内実を、彼女自身の言葉で知ることができる。 女性の自立という主題を、身をもって生きた作家の記録である。
幼年期と、教育の記述が、とりわけ重んじられる。サンドは自らを形づくった、家庭環境や、祖母の影響を、深く掘り下げて語る。ルソーの告白の系譜に連なる、内面の形成をたどる自伝として、読むことができる。
同時代の文化の証言としても、価値が高い。ミュッセやショパンといった、恋人であった芸術家たち。多くの作家や思想家たちとの交流。サンドの目を通して、十九世紀フランスの豊かな芸術と思想の世界が、生き生きと描かれる。
一方サンドはこの自伝で、恋愛のスキャンダラスな側面を、多くは語らず、抑制した書き方をしている。それでも独立した精神を貫いた一人の女性の生涯の全体を伝える記録として、後世に読み継がれてきた。
内容
『わが生涯の記』はジョルジュ・サンドが、自らの半生を回想した、長大な自伝である。
サンドはまず自らの出自を、語る。彼女の父方は貴族の血を引く家柄だった。一方母方は鳥売りの娘という、庶民の出だった。この身分の異なる二つの世界の血を引くことが、サンドの生き方や、思想に、深く関わっていく。
サンドの幼年期は祖母のもとで、過ごされた。貴族的な教養を持つ祖母は、孫娘に、深い愛情を注ぎ、彼女を、育て上げた。サンドはこの祖母との関わりや、少女時代の豊かな自然のなかでの体験を、こまやかに愛惜をこめて、描く。 修道院での教育や、読書によって、彼女の内面が、どう形づくられたかも、たどられる。
やがてサンドは若くして、ある男爵と、結婚する。だがその結婚生活は彼女を、満たさなかった。 平凡で、退屈な、田舎の暮らし。自由な精神を持つサンドは、その生活に、息苦しさを、感じていく。
そしてサンドは大きな決断をする。彼女は夫のもとを離れ、幼い子どもたちを連れて、パリへと、出る。 そこで文筆によって、自立して生きる道を、選ぶ。男の筆名「ジョルジュ・サンド」を名乗り、彼女は、作家としての第一歩を、踏み出す。
自伝にはパリでの作家としての生活と、彼女が関わった、多くの人々が、登場する。
とりわけ彼女の恋愛の相手となった、芸術家たち。情熱的な詩人ミュッセとの燃え上がり、そして破局した恋。病を抱えた音楽家ショパンとの長年にわたる、献身的な関わり。サンドはこれらの関係を、抑制をきかせながらも、率直に、回想する。
さらに同時代の作家、思想家、政治家たちとの幅広い交流も、描かれる。サンドの目を通して、十九世紀前半のフランスの革命と、芸術と、思想の生き生きとした世界が、浮かび上がる。
時代の常識に縛られず、男装し、自由に恋し、文筆で自立した一人の女性。その波乱に満ちた生涯の全体を、自らの言葉で語ったこの自伝は、十九世紀を生きた、独立した精神の貴重な証言となっている。