マルドロールの歌
- 原題
- Les Chants de Maldoror
- 作者
- ロートレアモン伯爵
- 成立
- 1869
- 国
- フランス
- 時代
- 19世紀
概要
韻文ではなく散文で書かれた、六つの歌からなる長い詩である。物語というより、次々に立ち現れる幻想の連なりに近い。
主人公マルドロールは、神と人間に敵対する存在である。あらゆる残酷を行い、姿を変え、動物と交わり、神を罵る。場面は脈絡なく飛び、蛸や鮫や蟇が現れ、人体は変形する。読み進めても筋は結ばれない。
言葉づかいは奇妙な二面性を持つ。文法や構文は整い、時に古典的とさえいえる格調を保っている。ところが、そこで結びつけられるイメージが常軌を逸している。整った文体で、狂った内容を語る——この落差が、この作品の異様さを生んでいる。
刊行は1869年だが、印刷業者が内容を恐れて配本しなかったため、実際にはほとんど流通しなかった。著者イジドール・デュカスは翌年、24歳で急死する。
文学史における評価と影響
生前は無名だった。読まれ始めるのは死後数十年を経てからで、決定的だったのは20世紀に入ってからである。
ブルトンらシュルレアリスムの詩人たちが、この作品を自分たちの直接の先駆として発見した。理性の統制を外し、無関係なものを衝突させて未知のイメージを生む——彼らが方法として掲げたことを、ロートレアモンは半世紀前に実行していた。
とりわけ第六の歌にある一句、「解剖台の上での、ミシンとこうもり傘との偶然の出会いのように美しい」は、シュルレアリスムの美学を表す標語として繰り返し引かれた。無関係な二つの物を強引に並置することで、日常の意味から解き放たれたイメージが立ち上がる、という考え方である。
読まれなかった作品が、時代が変わって初めて意味を持った例として、文学史でしばしば取り上げられる。
内容
第一の歌は「読者よ、この最初の頁を読むのはやめたほうがよい」という警告から始まる。以後、マルドロールの残虐が語られていく。
海への讃歌、蚤や蟇との対話、少年への執着、神が娼館で酔いつぶれる場面など、冒瀆的な挿話が続く。第四の歌には、蜘蛛や豚に変身する描写がある。
第六の歌だけは、他と異なりまとまった筋を持つ。マルドロールが少年メルヴィンを罠にかけ、破滅させるまでが語られる。「ミシンとこうもり傘」の比喩は、この少年の美しさを形容する場面に現れる。