不連続殺人事件

作者
坂口安吾
成立
1947-1948
日本
時代
現代

概要

ある詩人の屋敷に集まった男女のあいだで、次々に殺人が起きる、本格推理小説である。

戦後まもない頃。詩人歌川一馬が、自分の田舎の屋敷に、大勢の客——文士、女優、詩人、その妻や愛人たち——を招く。個性の強い、いわくつきの男女が、一つ屋根の下に集められる。

やがて、この閉じられた人間関係のなかで、連続殺人が始まる。一人、また一人と、招かれた客が殺されていく。しかも、その殺され方には、規則性がないように見える。 「不連続」——つながりのない、ばらばらの殺人に見える。

登場人物は多く、それぞれが複雑な愛憎と、隠された過去を抱えている。誰もが動機を持ち、誰もが怪しい。探偵役の巨勢博士が、この錯綜した事件に挑む。

この作品には、有名な仕掛けがある。安吾は、連載の途中で、「読者への挑戦状」を挟んだ。すべての手がかりは出そろった、真犯人を当ててみよ、と読者に呼びかけたのである。懸賞まで付けられ、多くの読者が推理を競った。

見かけの「不連続」の底には、実は緻密な論理が隠されている。そのトリックを解き明かしたとき、ばらばらに見えた殺人が、一つの明快な構図へと収斂する。

文学史における評価と影響

日本の本格推理小説の傑作とされ、純文学の作家である安吾が書いた点でも異色の作品にあたる。第二回探偵作家クラブ賞(現在の日本推理作家協会賞)を受賞した。

「読者への挑戦」という趣向が、この作品を有名にした。安吾は、作中で読者に真犯人当てを挑み、懸賞を懸けた。すべての手がかりはフェアに提示されている、あとは論理だけで犯人に到達できるという、本格推理の理想を、実践してみせた。

主題は、戦後の混乱期の、乱れた人間関係である。登場する男女は、既成の道徳がゆらいだ戦後の空気のなかで、複雑に愛し、憎み、裏切り合っている。その濃密な情念のもつれが、殺人の温床になる。 安吾らしい、人間の本性への鋭い観察が、推理の枠組みのなかで生きている。

「不連続」という題が、トリックの核心を示している。ばらばらに見える殺人が、実は一貫した論理でつながっている。その逆説を解くことが、事件の解決になる。

純文学と大衆文学の境を軽々と越えた安吾の力量を示す作品であり、日本の推理小説史のなかで、独自の位置を占めている。 後の本格推理の書き手たちにも、フェアプレイの精神の見本として、参照されてきた。

あらすじ

戦後まもない、ある年の夏。詩人の歌川一馬が、自分の郷里にある広壮な屋敷に、大勢の客を招く。

集まったのは、一癖も二癖もある男女である。詩人、小説家、画家、女優、そして彼らの妻、夫、愛人たち。 華やかで、それぞれに強烈な個性を持ち、互いに複雑な恋愛と因縁で結ばれた人々が、この田舎の屋敷に、一堂に会する。

屋敷の空気は、はじめから、どこか不穏である。それぞれの男女のあいだには、嫉妬、欲望、古い恨みが、渦を巻いている。

やがて、最初の殺人が起きる。 招かれた客の一人が、殺されて発見される。

続いて、第二、第三の殺人が起きる。招かれた者たちが、次々に、命を奪われていく。だが、その殺され方や、狙われる順番には、一見、何の規則性もない。まるで、脈絡のない、ばらばらの——「不連続」の殺人に見える。

屋敷は、恐怖に包まれる。誰が犯人なのか。居合わせた男女は、みな、それぞれに動機を持ち、それぞれにアリバイの曖昧なところがある。疑心暗鬼が、人々を苛む。

そこへ、探偵役の巨勢博士が登場する。巨勢は、この錯綜きわまる事件、多すぎる容疑者と、複雑すぎる人間関係を前に、冷静に推理を進めていく。

物語の途中、作者は、読者に向かって、挑戦状を叩きつける。 手がかりは、すべて出そろった。さあ、論理だけで、真犯人を指摘してみよ、と。

巨勢博士は、ばらばらに見えた殺人の底に、一貫した論理の糸を見出す。犯人は、周到な計算のもとに、殺人を「不連続」に見せかけていた。その見かけの無秩序こそが、犯人の仕掛けたトリックだったのである。

すべての手がかりが、一つの構図へとつながっていく。アリバイの綻び、動機の連鎖、そして「不連続」を装った真の目的。

巨勢博士は、居並ぶ男女を前に、事件の全貌を解き明かし、意外な真犯人の名を、指し示す。

乱れた戦後の人間関係が生んだ連続殺人は、緻密な論理によって、鮮やかに解体されて、幕を閉じる。

作者

登場する文学史