あら皮

原題
La Peau de chagrin
作者
オノレ・ド・バルザック
成立
1831
フランス
時代
19世紀

概要

願いを叶える魔法の道具が出てくる小説である。バルザックの作品としては珍しく、超自然的な設定を正面から使っている。

破産して自殺を考えていた青年ラファエルが、骨董屋で一枚のなめし皮を手に入れる。この皮は持ち主の願いを何でも叶える。ただし、叶えるたびに縮む。そして皮が縮んだぶん、持ち主の寿命も縮む。

ここから先は皮の設定がすべてを決める。願えば死に近づく。願わなければ生き延びられるが、それは何も望まない生である。ラファエルは莫大な遺産を手にした後、恐怖のあまり欲望を断とうとし、機械のような生活に入る。それでも人を愛してしまい、愛したぶんだけ皮は縮む。

1831年、バルザック三十二歳のときの刊行で、これが出世作にあたる。後に大構想『人間喜劇』へ組み込まれ、社会の実態を写す「風俗研究」に対して、その背後の原理を扱う「哲学的研究」の部門を代表する作品と位置づけられた。

バルザック自身が借金に追われ、返済のために驚異的な量の原稿を書き続けた人だった。五十一歳で力尽きるように死んでいる。書くことで生命を削っていた男が、欲することで生命を削る男の話を書いたという重なりは、以前から指摘されてきた。

文学史における評価と影響

欲望と生命を交換させるという着想が、この作品の核心にある。

生きることは欲することであり、欲することは生命を消費することである。だから何も欲しなければ長生きできるが、それは生きていることになるのか。骨董屋の老主人が語る忠告——「欲すること」と「できること」を避け、「知ること」に生きよ——が、この主題を要約している。老主人は実際にそうして百歳を超えている。そして作中で、その生き方が正しいとも間違っているとも決着はつかない。

縮んでいく皮というイメージ自体が広く知られるものになった。欲望が自分自身を食い尽くしていく比喩として、後に資本主義の消費と蕩尽を論じる文脈でも引かれてきた。

幻想的な枠組みのなかで、七月王政期のパリが精密に描かれている点も評価される。賭博場、豪奢な宴、社交界、貧しい下宿、金貸し。設定は寓話でも、観察は写実である。この組み合わせがバルザックの他の作品にはない緊張を生んでいる。

『人間喜劇』全体における位置も重要にあたる。バルザックは社会の全体を描く構想を持ち、そのなかでこの作品を「哲学的研究」の中心に置いた。人間を破滅させるのは思考と欲望の過剰な消費である、という認識が、ここでは寓話の形で示されている。

あらすじ

破産して絶望した青年ラファエル・ド・ヴァランタンは、パリの賭博場で最後の金を失う。セーヌ川に身を投げようと決め、夜を待つあいだに一軒の骨董屋へ入る。

老いた主人が、一枚の奇妙なを見せる。東方の文字でこう記されている。私を所有せよ、さらば汝はすべてを所有せん。だが汝の生命は私のものとなる。願いを一つ口にするたびに私は縮み、汝の生命もそれだけ縮む。

老主人は忠告する。長生きの秘訣は、「欲すること」と「できること」を避け、ただ「知ること」に生きることである。自分はそうして百歳を超えて生きてきた。

ラファエルは忠告を聞かず、皮を受け取る。そして思わず、盛大な宴を開きたいと願う。骨董屋を出た途端に旧友たちと出会い、豪奢な宴に招かれる。願いは叶い、皮は縮んでいた。

宴の席でラファエルは自分の来歴を語る。貧しい屋根裏部屋で学問に打ち込んでいたこと。冷たい社交界の美女フェドラに恋し、その心を得ようとして財産を使い果たしたこと。フェドラは最後まで応えず、ラファエルは破滅した。

宴の翌日、ラファエルは莫大な遺産を相続する。願いは次々に叶い、そのたびに皮は確実に縮んでいく。

恐怖に駆られたラファエルは、何も願わないことを決める。欲望を断ち、感情を殺し、機械のように規則正しい生活を送る。使用人には、自分に何かを尋ねることを禁じる。うっかり願いを口にしないためである。

だがラファエルは、かつて貧しい下宿で自分を慕っていた娘ポーリーヌと再会する。ポーリーヌはいまや裕福になっており、ラファエルを深く愛している。ラファエルもポーリーヌを愛する。愛することは望むことである。 生命は削られていく。

ラファエルは皮を井戸に投げ捨てる。だが庭師が見つけて持ち帰る。化学者に引き伸ばさせようとし、あらゆる薬品と機械を試すが、皮は決して伸びない。医師たちに診せても病は癒えない。

温泉地へ療養に行くが、そこでも争いに巻き込まれて生命を削る。パリに戻ったときには、すでに死の床にある。皮は掌に収まるほど小さくなっている。

最後の場面。ポーリーヌが駆けつける。瀕死のラファエルは、それでもなおポーリーヌを欲する。その最後の欲望とともに皮は消え、ラファエルはポーリーヌの腕の中で息絶える。

作者

登場する文学史