J・M・G・ル・クレジオ
- 原綴
- Jean-Marie Gustave Le Clézio
- 生没
- 1940–
- 出身
- 南フランス・ニース(アルプ=マリティーム県)
- 国
- フランス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1940年、南フランスのニース(アルプ=マリティーム県)に生まれた。一族は、インド洋のモーリシャス島にルーツをもつ。この島国とのつながりが、その後の、故郷と移動をめぐる文学の背景にある。
二十三歳のとき、最初の小説『調書』でルノドー賞を受け、鮮烈に登場した。当初は、都市文明のなかで疎外された人間を描いた。
やがて、その関心は、西洋の近代文明の外へと向かった。メキシコの先住民の世界に長く暮らし、北アフリカの砂漠の民に惹かれ、世界各地を旅した。文明を批判し、自然や、いわゆる未開とされた文化のなかに、失われた人間の姿を求めた。フランスとモーリシャス、二つの国籍をもち、各地を移動しながら書き続けている。2008年、ノーベル文学賞を受けた。
作風
ル・クレジオの文学の核心には、西洋近代文明への根深い批判がある。都市の喧噪、消費、管理された生活。そうした現代の文明を、人間を疎外し、自然から切り離すものとして描く。初期の作品は、この文明のなかで神経をすり減らす人間の姿を、鋭くとらえた。
その裏返しとして、自然と、異文化への強い憧れがある。砂漠、海、太陽、光。人工物から遠く離れた原初の自然の輝きが、繰り返しうたわれる。また、西洋が「未開」と見下してきた先住民の文化のなかに、近代が失った、世界との一体感を見出そうとした。
放浪する人々への共感も、一貫している。故郷を追われた移民、砂漠を旅する遊牧の民、居場所を求めてさまよう子ども。定住せず、移動し続ける人々の姿に、ル・クレジオは、みずからの文学の主題を託した。その簡潔で感覚的な文体は、光や風景をみずみずしくとらえる。
作品
『調書(Le Procès-verbal)』(1963年)
社会からはみ出した青年の、混乱した意識と彷徨を描いた小説である。二十三歳のル・クレジオの出発点となり、ルノドー賞を受けた。近代文明のなかで疎外された人間という、初期の主題を示している。
『砂漠(Désert)』(1980年)
北アフリカの砂漠に生きる遊牧の民の世界と、フランスに移り住んだ移民の少女の物語とを、交互に描いた長篇である。文明と自然、故郷と移動という、ル・クレジオの円熟した主題が結晶した代表作にあたる。
文学史における立ち位置と影響
ル・クレジオは、西洋近代文明を批判し、自然と異文化への憧れを描いた作家として文学史に名を残す。フランス文学の枠にとどまらず、世界各地の文化と、移動する人々に目を向けたその視野の広さに、その特色がある。
ノーベル文学賞の授賞理由では、「新たな出発と、詩的な冒険と、官能的な陶酔の作家であり、支配的な文明の彼方と、その底に生きる人間性の探究者」とたたえられた。西洋中心の見方を越えて、地球規模で人間と文化を見つめる姿勢が、高く評価された。
グローバル化の時代にあって、故郷と移動、文明と自然の関係を問い続けるル・クレジオの文学は、国境を越えた現代文学の一つのあり方を示している。