イアン・マキューアン
- 原綴
- Ian McEwan
- 生没
- 1948–
- 出身
- ハンプシャー州オルダーショット
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1948年、イングランド南部の軍の町オルダーショットに、軍人の子として生まれた。父の任地に従い、少年期の一部を、北アフリカやアジアで過ごした。大学で英文学を学んだのち、創作を専門に学ぶ課程で、作家としての訓練を受けた。
初期には、不気味で、時に残酷な短篇や小説を書き、「マカーブル(陰惨)なイアン」とも呼ばれた。近親相姦や、死体、性の倒錯といった、暗い題材を、冷静な筆で描いた。
やがてより広く、社会や歴史、科学をも視野に入れた小説へと成熟していった。2001年の『贖罪』が、批評と人気の両面で大きな成功をおさめた。現代イギリスを代表する小説家の一人として、旺盛に作品を発表し続けている。
作風
マキューアンの小説の際立った特徴は、緊密な構成にある。一つの物語が、精密に、無駄なく組み立てられている。とりわけ日常のなかで起きる、ある一つの出来事や、一瞬の判断が、その後の人生を、取り返しのつかない方向へ変えてしまう。この、偶然や過ちがもたらす、決定的な帰結を描くことに、マキューアンはすぐれる。
心理と倫理への、鋭い関心が、その根にある。極限の状況に置かれた人間が、何を考え、どう行動するのか。そしてその行動が、いかに深い結果を生むのか。マキューアンは、登場人物の心の動きを、精緻に、冷静に追いながら、善悪では割り切れない、人間の複雑さを浮かび上がらせる。
その文章は、明晰で、抑制が効いている。感傷に流れず、対象を正確にとらえる。科学や医学、歴史といった、専門的な知識を巧みに取り込みながら、それを、緊迫した物語のなかに溶け込ませる。知性と、物語の面白さとを、みごとに両立させている。
作品
『贖罪(Atonement)』(2001年)
少女の一つの思い込みと、そこから生まれた嘘が、二人の男女の運命を、そして少女自身の生涯を、決定的に狂わせていくさまを描いた長篇である。一瞬の過ちがもたらす、取り返しのつかない帰結と、それを償おうとする心を描いた、マキューアンの代表作にあたる。
『愛の続き』は、ある事故をきっかけに、見知らぬ男につきまとわれる主人公の恐怖を描いた。『アムステルダム』は、辛辣な人間劇で、ブッカー賞を受けた。
文学史における立ち位置と影響
マキューアンは、現代イギリスを代表する小説家の一人として、高い評価を得ている。緊密な構成と、心理・倫理への鋭い洞察を兼ね備えたその小説は、現代の英語圏の文学のなかで、際立った完成度をもつ。
一つの出来事が人生を決定づけるという主題を、繰り返し、さまざまな角度から描いてきた点も、その特色である。偶然と過ち、そして人間の判断の重みを問うその作品は、多くの読者を引きつけ、映画化もされてきた。
初期の陰惨な短篇から、歴史や科学をも扱う成熟した長篇へという、その歩みは、一人の作家の成長の軌跡を示している。知性と物語性を結んだその文学は、現代イギリス小説の水準を代表するものとされている。