フィリップ・ラーキン
- 原綴
- Philip Larkin
- 生没
- 1922–1985
- 出身
- ウォリックシャー州コヴェントリー
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1922年、イングランド中部の工業都市コヴェントリーに生まれた。オックスフォード大学に学んだ。若いころは小説家を志し、二作の小説を書いたが、やがて詩に専念した。
生涯の大半を、大学の図書館司書として過ごした。北部の都市ハルの大学図書館に長く勤め、地味で規則的な暮らしを送った。華やかな文壇づきあいや、旅行を好まず目立たない一市民として生きた。この平凡な日常こそが、その詩の題材だった。
寡作で、生涯に発表した詩集はわずかである。だが一篇一篇の完成度は高く、戦後イギリスで最も広く読まれ、愛される詩人となった。国民的な名声を得ながらも、その控えめな生き方は変わらなかった。1985年に没した。
作風
ラーキンの詩は、平明である。難解な神話や、高尚な象徴を用いない。誰にでもわかる、日常の言葉で書く。この平明さは、意識的な選択だった。ラーキンは、一部の知識人にしか通じない、難解な現代詩のあり方に反発し、ふつうの人々に届く詩をめざした。この姿勢を共有した戦後の詩人たちは「ムーヴメント」と呼ばれた。
題材は、ありふれた日常である。休日の駅の情景、病院、教会、結婚式の光景。特別な出来事ではなく、誰もが目にする平凡な場面が、詩の出発点になる。だがそこからラーキンは、老いや、孤独、そして避けがたい死といった、人生の根本的な主題を、静かに引き出してくる。
その調子は、皮肉と憂鬱に彩られている。人生への期待は、たいてい裏切られる。幸福は手からこぼれ落ち、残るのは空虚と、そして死である。ラーキンは、この身も蓋もない現実を、感傷に流されず、時に苦い笑いをまじえて、率直に見つめた。死を正面から見据えた詩「アルバ」は、その峻厳さを示している。
作品
『降誕祭の結婚(The Whitsun Weddings)』(1964年)
ラーキンの代表的な詩集である。表題作は、ある休日、列車で旅する詩人が、途中の駅々で次々と乗り込んでくる、結婚式帰りの人々を眺める光景をうたう。ありふれた情景から、人生と時間についての静かな感慨を引き出した、ラーキンの手法をよく示す一篇である。
詩「アルバ(Aubade)」は、夜明け前に目覚め、避けがたい死への恐怖を、まぎれもなく見つめた詩で、ラーキンの峻厳な人生観を凝縮している。
文学史における立ち位置と影響
ラーキンは、戦後イギリスを代表する詩人として文学史に名を残す。難解になりがちだった現代詩を、日常の平明な言葉へと引き戻し、ふつうの読者に届く詩を書いた点に、その意義がある。この姿勢は、戦後イギリス詩の一つの大きな流れをなした。
平凡な日常から、老いや死という普遍的な主題をすくい取るその手法は、多くの読者の共感を呼んだ。飾らない言葉で、人生の真実を率直に語るその詩は、専門家だけでなく、広く一般に愛された。
感傷を排し、人生の空虚と死を直視するその態度は、戦後の、幻想を失った時代の精神を、よく映している。控えめな一市民として生きながら、国民的な詩人となったその姿は、詩人のあり方の一つの型を示している。