ウィリアム・ラングランド

原綴
William Langland
生没
1332頃–1386頃
出身
イングランド西部・モルヴァーン丘陵の周辺(推定)
イギリス
時代
中世

生涯

生涯はほとんど分かっていない。ウィリアム・ラングランドという名も、『農夫ピアズの幻想』の一写本に書き込まれた覚え書きから推定されたものである。作品の記述からは、イングランド西部のモルヴァーン丘陵のあたりに生まれ、聖職の下級の位を受けたものの妻帯していたために出世できず、ロンドンで詩篇の代筆や祈りによって貧しく暮らした、という像がうかがえる。ただしこれも本文からの推測であって、確かな記録ではない。

作風

作品は、夢の中で見た幻を語るという中世に広く行われた形式(夢物語)をとる。語り手ウィルが眠りに落ち、いくつもの寓意的な光景を見ていく。

言葉づかいは、当時のチョーサーがフランス・イタリアに倣って脚韻と音数を整えたのとは異なり、古いイングランドの詩の伝統である頭韻に従う。一行を二つに分け、同じ子音で始まる語を並べて韻を作る方法である。この点でラングランドは、大陸の新しい詩法ではなく、アングロ・サクソン以来の英詩の系譜に連なる。

作品

『農夫ピアズの幻想(Piers Plowman)』は、キリスト教徒がどう正しく生きるかを問う長篇の寓意詩である。語り手は、腐敗した聖職者や強欲な人々のあふれる世を夢に見たのち、「よく行うこと・よりよく行うこと・最もよく行うこと」を探して遍歴する。農夫ピアズは、素朴な労働と信仰を体現する人物として現れ、やがてキリストと重ね合わされていく。

現世の不正への鋭い社会批判と、魂の救いへの問いが一つに結ばれている。本文には作者自身が三十数年をかけて改稿したとみられる複数の形(A・B・C の三系統)が残り、決定版を一つに定めにくい。

文学史における立ち位置と影響

ラングランドは、チョーサー、および『サー・ガウェインと緑の騎士』を書いた無名の詩人とともに、14世紀の中英語文学を代表する詩人に数えられる。チョーサーが大陸の詩法を取り入れて英詩を刷新したのに対し、ラングランドは古い頭韻詩の伝統を最後に大きく実らせた存在である。

作品は当時から広く読まれ、多くの写本が残った。農夫ピアズという素朴な労働者の像は、その後のイングランドで社会の不正を正す民衆の声の象徴として繰り返し呼び出され、14世紀末の農民一揆の文書にもその名が引かれている。

登場する文学史