エリザベス・ギャスケル

原綴
Elizabeth Gaskell
生没
1810–1865
出身
ロンドン・チェルシー
イギリス
時代
ヴィクトリア朝

生涯

1810年、ロンドンのチェルシーに生まれた。幼くして母を失い、田舎の親戚に育てられた。この田舎町での経験が、のちの温かな作品の背景になった。

牧師のギャスケルと結婚し、当時、産業革命の中心地だった工業都市マンチェスターに暮らした。牧師の妻として、貧しい労働者の家庭を訪ね、その暮らしを間近に見た。工場労働者の悲惨な生活を、身をもって知ったこの経験が、社会派の小説を書く動機となった。

幼い息子を病で失った悲しみを紛らわすため、本格的に小説を書き始めた。最初の小説『メアリー・バートン』が注目され、ディケンズの雑誌にも寄稿するようになった。友人でもあったシャーロット・ブロンテの伝記を書いたことでも知られる。1865年に没した。

作風

ギャスケルの小説には、大きく二つの傾向がある。一つは、産業社会の問題を正面から扱った、社会派の小説である。工業都市で、雇い主と労働者が鋭く対立するなか、貧困にあえぐ労働者の苦しみを、深い共感をこめて描いた。それまで文学が目を向けなかった、工場労働者の現実を、はじめて小説の主題にした一人である。

もう一つは、田舎町の穏やかな暮らしを描いた、温かな小説である。とりわけ『クランフォード』は、小さな田舎町に暮らす女性たちの、ささやかな日常を、ユーモアと愛情をこめて描いた。急速に変わりゆく時代のなかで、失われていく古い暮らしへの愛惜がにじむ。

対立を超えた和解への願いが、その根にある。社会派の小説においても、ギャスケルは、一方の階級を断罪するのではなく、雇い主と労働者、双方の人間性を描こうとした。異なる立場の人々が、たがいを理解し合うことへの願いが、その文学を貫いている。

作品

『メアリー・バートン(Mary Barton)』(1848年)

工業都市マンチェスターを舞台に、貧困にあえぐ労働者の家庭を描いた小説である。飢えと絶望のなかで、労使の対立が悲劇へと至るさまを、労働者の側から共感をこめて描いた。産業社会の問題を扱った小説の、先駆的な作品にあたる。

『北と南(North and South)』(1855年)

南部の田舎から北部の工業都市へ移った女性の目を通して、雇い主と労働者の対立と、その和解の可能性を描いた長篇である。

田舎町の女性たちの日常を描いた『クランフォード(Cranford)』は、ギャスケルのもう一つの代表作である。

文学史における立ち位置と影響

ギャスケルは、産業社会の問題を小説の主題とした、社会派小説の先駆者として文学史に名を残す。工場労働者の苦境という、それまで文学が目を向けなかった現実を、共感をこめて描いた点に、その意義がある。

その社会への視線は、同時代のディケンズらとも共有され、ヴィクトリア朝の社会派小説の一つの流れをなした。文学が、社会の不正や、弱い立場の人々の苦しみを描くという役割を、ギャスケルは体現した。

友人シャーロット・ブロンテの伝記を著したことも、重要な功績である。この伝記は、ブロンテの生涯を後世に伝える貴重な記録であるとともに、伝記文学の名作とされている。社会への共感と、人間への温かなまなざしをあわせもつ作家である。

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