アンジェラ・カーター
- 原綴
- Angela Carter
- 生没
- 1940–1992
- 出身
- イースト・サセックス州イーストボーン
- 国
- イギリス
- 時代
- 20世紀以降
生涯
1940年、イングランド南部イースト・サセックスに生まれた。戦時下、祖母のもとに疎開して幼少期を過ごした。若くして結婚したが、のち離婚し、その前後に、二年ほど日本に滞在した。この異文化での経験が、みずからの社会を外から見つめ直す視点を与えた。
帰国後、幻想的で官能的な小説を次々と発表した。おとぎ話や神話といった、古い物語の型を借りながら、それを大胆に、そして挑発的に書き換える作風で知られた。大学で創作を教えもした。
生涯を通じて、女性をめぐる旧来の物語や、それを支える価値観に、鋭く挑み続けた。1992年、五十一歳で早世した。その死後、評価はいっそう高まった。
作風
カーターの文学の核心は、古い物語の大胆な書き換えにある。誰もが知るおとぎ話や神話には、女性を受け身の存在、救われるのを待つだけの存在として描く型が刻まれている。カーターは、こうした物語を裏返し、女性を欲望し、選び、時に牙をむく主体として描き直した。
その世界は、幻想的で、官能的である。ゴシック小説の、暗く妖しい雰囲気を受け継ぎ、そこに、めくるめく色彩と、あふれる想像力を注ぎ込む。血、毛皮、鏡、仮面。豊かなイメージに満ちた、濃密な文章で、夢のような世界を織り上げる。
その根には、明確なフェミニズムの意識がある。だがカーターは、単純な教訓を説くのではない。女性の欲望や力を、その暗い側面もふくめて、率直に、そして楽しげに解き放つ。抑圧されてきた女性の性と力を、幻想の物語のなかで、大胆に肯定してみせた。
作品
『血染めの部屋(The Bloody Chamber)』(1979年)
「青ひげ」「赤ずきん」「美女と野獣」といった、よく知られたおとぎ話を、大胆に書き換えた短篇集である。受け身だった女性の主人公たちが、みずからの欲望と力に目覚めていく。カーターの手法を最もよく示す代表作にあたる。
『夜ごとのサーカス(Nights at the Circus)』(1984年)
翼をもつ女性の空中ブランコ乗りを主人公にした、幻想的な長篇である。世紀末を舞台に、奇想と官能に満ちた物語を繰り広げた。
初期の『魔法の玩具店』も、少女の成長を幻想的に描いた作品として知られる。
文学史における立ち位置と影響
カーターは、幻想文学とフェミニズムを結びつけた作家として文学史に名を残す。おとぎ話や神話という、古くから女性像を刷り込んできた物語を、内側から書き換えたその試みは、文学における女性の描かれ方そのものを問い直すものだった。
その影響は、その死後、いっそう大きくなった。おとぎ話を女性の視点から語り直すという手法は、後の多くの作家に受け継がれた。幻想と官能、そして知的な挑発を兼ね備えたその文学は、現代の女性作家に、豊かな可能性を開いた。
暗く妖しいゴシックの世界に、女性の欲望と力を大胆に解き放ったカーターの物語は、二十世紀後半のイギリス文学のなかで、際立って独創的な位置を占めている。