梁塵秘抄
- 作者
- 作者不詳
- 成立
- 1179頃
- 国
- 日本
- 時代
- 中古
概要
平安時代の末に流行した歌謡「今様(いまよう)」を集めた本である。今様とは「現代風の歌」という意味で、当時の流行歌にあたる。七音と五音を四回繰り返す形が基本で、節をつけて歌われた。
編んだのは後白河法皇(1127-1192)である。天皇・上皇として政治の中心にいた人物が、遊女や芸能者を宮中に招き、自ら喉をつぶすほど今様を習ったと伝えられる。その熱中ぶりを自ら記した『梁塵秘抄口伝集』も残る。
この本の特別なところは、歌の作り手と歌い手が、貴族ではない点にある。当時の正統な詩歌はであり、宮廷の文化だった。今様は、遊女・白拍子・僧・庶民が歌ったもので、記録に残りにくい階層の声を伝えている。
書名の「梁塵」は、名歌に梁(はり)の塵も動いたという中国の故事に由来する。
文学史における評価と影響
平安末の庶民の心情を伝える、ほとんど唯一の資料として重んじられる。和歌が洗練を極めていた同じ時代に、まったく別の調子の歌が広く歌われていたことを示す。
ただし伝来は不幸だった。全二十巻あったとされるが、長く行方が分からず、明治44年(1911年)になって一部が発見された。現在読めるのはごく一部にすぎない。
近代以降、その素朴で切実な調子が再発見され、多くの作家に引かれてきた。定型の和歌とは異なる、うたうための言葉の力を示すものとして、日本の詩歌の歴史に独自の位置を占めている。
内容
仏教への信仰を歌ったもの、恋を歌ったもの、子どもや遊びを歌ったものなど、内容は幅広い。
最もよく知られるのが「遊びをせんとや生まれけむ戯れせんとや生まれけん遊ぶ子供の声きけば我が身さへこそ動がるれ」である。人は遊ぶために生まれてきたのだろうか、遊ぶ子どもの声を聞くと自分の身までも動き出す、という歌で、作者は分かっていない。
「仏は常にいませども現ならぬぞあはれなる人の音せぬ暁にほのかに夢に見え給ふ」のように、信仰の切実さを歌ったものも多い。いずれも、技巧を凝らした和歌とは異なる、口ずさむための率直な言葉でできている。