開高健

原綴
Kaikō Takeshi
生没
1930–1989
出身
大阪・大阪市
日本
時代
現代

生涯

1930年、大阪に生まれた。少年期に父を失い、戦中戦後の貧しさのなかで育った。大阪市立大学に学び、卒業後、洋酒メーカーの寿屋(現在のサントリー)に入社した。宣伝部で広告の文案を書く仕事をしながら、小説を書き始めた。

1957年、『裸の王様』で芥川賞を受け、作家として立った。以後、社会の矛盾や、人間の生の問題を主題にした作品を発表した。

1964年からベトナム戦争の従軍取材に赴き、戦場で死線をくぐった。この体験は、代表作『輝ける闇』に結ばれた。後半生は、世界各地を釣りをして巡り、その紀行やエッセイでも多くの読者を得た。1989年に没した。

作風

開高の文章は、濃密で、感覚に訴える。色、匂い、味、手触りといった、五感でとらえた世界を、豊かな語彙で描き出す。とりわけ食べ物や自然を描くとき、その文章は生き生きとした官能をおびる。生きることの手ごたえを、言葉で確かめようとする姿勢が根にある。

初期は、社会の矛盾を鋭くとらえる批評的な作品を書いた。管理化された現代社会のなかで、生気を失っていく人間を描いた。この社会への批評眼が、開高の出発点にある。

ベトナム戦争の体験が、作風を深めた。戦場で死に直面したことで、開高の関心は、生と死の際にある人間の実存へと向かった。極限の状況のなかで、かえって濃くなる生の実感を、開高は書き続けた。釣りへの傾倒も、この生の充実を求める姿勢の延長にある。

作品

『裸の王様』(1957年)

子どもの絵の指導を通して、大人の世界の欺瞞を照らし出した中篇である。芥川賞を受け、開高の出世作となった。

『輝ける闇』(1968年)

ベトナム戦争の従軍体験に基づく長篇である。戦場に身を置いた者の視点から、戦争の現実と、そこで研ぎ澄まされる生の感覚を描いた。開高の代表作とされる。続篇に『夏の闇』がある。

釣りをめぐる紀行『オーパ!』や、食と酒を語ったエッセイも広く読まれ、開高の豊かな感覚の世界を伝えている。

文学史における立ち位置と影響

開高は、戦後日本の社会と、人間の生の問題を、濃密な文体で描いた作家として文学史に名を残す。社会批評から出発し、ベトナム戦争の体験を経て、生と死の際にある実存へと主題を深めた歩みに、その特色がある。

ルポルタージュと小説の境を越えた仕事も、開高の重要な達成である。戦場や辺境に自ら赴き、その体験を作品に結んだ姿勢は、書斎の作家とは異なる、行動する作家の系譜に連なる。

小説とエッセイの両面で、生きることの充実を追い求めた開高の文学は、豊かな感覚の言葉とともに、今日も多くの読者を引きつけている。