ピンダロス
- 原綴
- Pindar
- 生没
- 前518頃–前438頃
- 出身
- ボイオティア地方キュノスケファライ(テーバイ近郊)
- 国
- ギリシャ
- 時代
- 叙事詩の時代
生涯
前518年ごろ、ギリシャ本土のボイオティア地方、テーバイの近郊に生まれた。貴族の家の出とされる。若くしてアテナイに学び、合唱をともなう抒情詩の技法を身につけた。
その名声は、ギリシャ世界の各地に広がった。ピンダロスは、有力な都市の支配者や、富裕な貴族から依頼を受け、その依頼に応じて詩を作った。とりわけ、オリュンピア(オリンピック)をはじめとする、汎ギリシャ的な競技会の勝者をたたえる祝勝歌の作者として、引く手あまただった。
各地の宮廷や名家をめぐり、祝勝歌を作り続けた。その詩は、当時の貴族社会の理想と、宗教的な世界観を映している。前438年ごろ、高齢で没した。
作風
ピンダロスの詩は、競技会の勝者をたたえる「祝勝歌(エピニキオン)」を中心とする。これは、オリュンピアなどの競技会で優勝した者を祝うために、その凱旋の場で、合唱隊が歌い、踊る詩である。個人の勝利を祝う機会の詩でありながら、その内容は、はるかに深く、荘重である。
その構成は、独特である。勝者への賛辞から始まり、しばしば、その勝者の一族にゆかりの神話の物語へと飛ぶ。そして神話を通して、人間の運命や、栄光のはかなさ、神々への敬虔といった、普遍的な教訓を語り、ふたたび勝者への祝福へと戻ってくる。この、現在の勝利と、神話と、教訓とを大きく結び合わせる飛躍が、ピンダロスの詩の特徴である。
言葉は、荘重で、凝縮されている。華麗な比喩と、格調高い調子で、人間の栄光の一瞬をたたえる。だがその背後には、つねに、人の世のはかなさへの、静かな認識がある。「人間とは、影の見る夢だ」という一句は、ピンダロスの世界観をよく示している。
作品
『祝勝歌集(Epinikia)』
競技会の勝者をたたえる祝勝歌を集めたものである。開催された競技会ごとに、『オリュンピア祝勝歌』『ピュティア祝勝歌』などに分けて伝わっている。ピンダロスの作品のうち、まとまった形で現存するのは、ほぼこの祝勝歌のみである。
一つ一つの詩は、特定の勝者のために作られたが、そこで語られる神話と教訓は、時代を越えた普遍性をもつ。個人を祝う機会の詩を、荘厳な芸術にまで高めた点に、ピンダロスの独自性がある。
文学史における立ち位置と影響
競技会の勝者をたたえるという、限られた機会のための詩を、ピンダロスは、人間の運命と栄光をめぐる荘厳な芸術へと高めた。ここにその比類のなさがある。古代ギリシャの合唱抒情詩の頂点をなす詩人である。
その荘重で格調高い詩風は、後世に「ピンダロス風」という言葉を生んだ。個人の内面をうたう繊細な抒情とは異なる、公的で壮麗な頌歌の様式として、ヨーロッパの詩に、長く一つの規範を示した。
古代ギリシャの抒情詩人のなかで、まとまった作品が現存する数少ない一人でもある。競技に集う古代ギリシャ世界の理想と、その宗教的な世界観を、今日に伝える貴重な詩人とされている。