コンスタンティノス・カヴァフィス

原綴
Constantine P. Cavafy
生没
1863–1933
出身
エジプト・アレクサンドリア
ギリシャ
時代
近代・現代

生涯

1863年、エジプトの港湾都市アレクサンドリアに、ギリシャ人の商人の家に生まれた。この街は、古代にはヘレニズム文化の中心として栄え、当時も多くの民族が交わる国際都市だった。少年期の一時をイギリスやイスタンブールで過ごしたのち、生涯の大半を、このアレクサンドリアで送った。

役所の水利局に、長く一官吏として勤めた。詩は、その傍らで、静かに書き続けた。作品を商業的に出版することはほとんどせず、みずから印刷した詩を、知人に配るにとどめた。生前、その詩が広く世に知られることはなかった。

孤独な独身の生活を送り、1933年、七十歳の誕生日に、故郷アレクサンドリアで没した。その真価が世界に知られるのは、死後のことである。

作風

カヴァフィスの詩は、大きく二つの主題をもつ。一つは、歴史である。とりわけ、古代ギリシャ・ローマや、ヘレニズム世界、ビザンツ帝国といった、過ぎ去った文明を主題にする。歴史上の、しばしば無名の、あるいは敗れゆく人物の一瞬をとらえ、その運命を通して、時の流れと人の世のはかなさを描く。

もう一つは、欲望と、老いである。若い日の官能の記憶、過ぎ去った恋、そして老いていく身の哀しみ。同性への愛をふくむ、みずからの欲望を、隠さず、しかし抑えた調子でうたった。過去の快楽の記憶が、老いた現在を照らす、その光と影が描かれる。

その文体は、平明で、皮肉がきいている。華麗な修辞を避け、日常の口語に近い、簡潔な言葉で書く。感傷に溺れることなく、対象を、醒めた、ときにアイロニーをこめた目で見つめる。この抑制と皮肉が、カヴァフィスの詩に、独特の深みを与えている。

作品

「イタケ(Ithaka)」

故郷イタケをめざす、オデュッセウスの帰還の航海になぞらえて、人生そのものを旅として描いた詩である。目的地に着くことよりも、そこへ至る道のりで得る経験こそが宝なのだ、とうたう。カヴァフィスの最も愛される詩の一つにあたる。

「蛮族を待ちながら(Waiting for the Barbarians)」

いつ来るとも知れぬ蛮族の襲来を待ちわびる、一つの都市を描いた詩である。来るはずの脅威が来なかったとき、人々はかえって途方に暮れる。歴史の緊張と、その虚しさを、皮肉をこめて描いた。「都市」など、内面をうたった詩も名高い。

文学史における立ち位置と影響

生前はほぼ無名だったが、死後、その真価が広く認められた。今日では、近代ギリシャ語で書かれた最も偉大な詩人とされる。二十世紀の世界詩においても、重要な一人である。

その世界的な評価には、他国の作家の力もあった。アレクサンドリアに暮らしたイギリスの作家フォースターらが、カヴァフィスの詩を英語圏に紹介した。歴史と欲望を、平明で皮肉な口語でうたうその独特の詩法は、国境を越えて、多くの詩人に影響を与えた。

華やかな修辞を排し、歴史上の一場面や、個人の記憶の一瞬に、人間の運命を凝縮する手法は、現代詩の一つの手本となっている。辺境の街で孤独に書き続けた詩人が、死後、世界の詩の中心の一人となった、稀有な例である。

登場する文学史