コレット

原綴
Sidonie-Gabrielle Colette
生没
1873–1954
出身
ブルゴーニュ地方サン=ソヴール=アン=ピュイゼー(ヨンヌ県)
本名
シドニー=ガブリエル・コレット
フランス
時代
20世紀以降

生涯

1873年、ブルゴーニュの村サン=ソヴール=アン=ピュイゼー(ヨンヌ県)に生まれた。田園の自然に囲まれ、聡明な母のもとで育った幼年時代は、後の作品にくり返し立ち返る原点になった。

二十歳で、文筆家ウィリーと結婚してパリに出た。最初の小説「クローディーヌ」の連作は、夫ウィリーの名で発表され、大評判となった。だがその印税は夫が握り、コレット自身は名も報酬も得られなかった。この経験が、自立への意志を固めさせた。

夫と別れたのち、みずから舞台に立ち、寄席や踊り場で演じる女優として生計を立てながら、自分の名で書くようになった。その奔放な舞台は、しばしばスキャンダルにもなった。以後、恋愛や女性の生を主題にした小説を次々と発表した。文学者の団体アカデミー・ゴンクールの会長も務め、国民的な作家として敬愛された。1954年に没したとき、女性として初めて国葬をもって送られた。

作風

コレットの文体は、五感に訴える。花の香り、猫の毛の手触り、季節の移ろい、料理の味。身のまわりの感覚的な世界を、みずみずしく、官能的にとらえる。頭で考えた観念ではなく、身体で感じ取った現実を描くのが、コレットの筆である。

恋愛と、女性の内面が、一貫した主題である。愛の歓びと苦しみ、年齢を重ねる女性の心と身体、若さの終わりと成熟。とりわけ、年上の女性と若い男との恋を、感傷を排して、率直に描いた。女性の欲望や感覚を、隠さずに書いた点が新しかった。

自然と動物への愛も、作品に満ちている。故郷の田園、庭の草花、猫や犬。人間だけでなく、生き物や自然の世界を、細やかな感覚でとらえた。生きることそのものの喜びが、その文学の底に流れている。

作品

『シェリ(Chéri)』(1920年)

年上の高級娼婦と、若い男シェリとの恋、そしてその別れを描いた小説である。若さと老い、愛の終わりを、感傷を排して繊細にとらえた。コレットの代表作にあたる。

『青い麦(Le Blé en herbe)』(1923年)

海辺で夏を過ごす少年少女の、性への目覚めと恋を描いた小説である。若い感覚のゆらめきを、みずみずしくとらえた。

故郷と母を描いた『シド(Sido)』は、コレットの原点である田園と、聡明な母の姿を、みずみずしくよみがえらせた自伝的な作品にあたる。晩年の『ジジ(Gigi)』は、少女が一人の女性へと成長していく物語で、のちに映画や舞台としても親しまれた。

文学史における立ち位置と影響

コレットは、二十世紀フランス文学を代表する女性作家として文学史に名を残す。女性の感覚や欲望を、男性の視点からではなく、女性自身の身体と経験から率直に描いた点に、その大きな意義がある。

感覚に訴える官能的な文体は、フランス散文の一つの達成とされる。観念よりも身体の実感を重んじるその筆は、後の女性作家たちに道を開いた。女性が自らの経験を自らの言葉で書くという営みの、有力な先駆である。

夫の名で書かされた出発点から、自らの名を確立し、国民的な作家にまで登りつめたその生涯そのものが、女性の自立の物語として記憶されている。二十世紀を代表するフランスの作家の一人である。