イーヴリン・ウォー

原綴
Evelyn Waugh
生没
1903–1966
出身
ロンドン
イギリス
時代
20世紀以降

生涯

1903年、ロンドンの出版に関わる家に生まれた。オックスフォード大学に学び、華やかな社交の日々を送った。この大学時代の経験と、そこで出会った上流階級の若者たちの世界が、のちの作品の重要な素材になった。

1920年代の終わりから、上流社会を諷刺する喜劇小説を発表し、機知に富む若い才能として注目された。第二次大戦には従軍し、その体験も作品に生かした。

戦争のさなか、カトリックに改宗した。この信仰が、後半生の作品に、深い陰影を与えた。軽妙な諷刺の喜劇から、信仰と、貴族社会の没落を見つめる、より重厚な作品へと、その作風は移っていった。1966年に没した。

作風

ウォーの前半生の小説は、辛辣な諷刺喜劇である。上流社会の、華やかでありながら空虚な人々を、冷ややかな笑いのなかに描いた。彼らの愚かさや、道徳の欠如を、感情をまじえず、突き放した筆でとらえる。この、非情なまでに醒めた喜劇が、若きウォーの持ち味だった。

その文章は、簡潔で、無駄がない。感傷や、大げさな表現を排し、切れのよい、洗練された文体で、こっけいな場面を描く。淡々とした語り口と、描かれる出来事の馬鹿馬鹿しさとの落差が、独特のブラックユーモアを生む。イギリス諷刺文学の伝統を、みごとに受け継いでいる。

後半生には、その笑いの底に、より深い主題が加わった。信仰への回帰とともに、ウォーの関心は、神の恵みと、うつろいゆくものへの郷愁に向かった。とりわけ古い貴族社会が、時代とともに没落し、消えていくことへの、複雑な哀惜が、後期の作品に流れている。諷刺の鋭さと、失われゆくものへの愛惜とが、そこで結びついている。

作品

『ブライヅヘッドふたたび(Brideshead Revisited)』(1945年)

ある貴族の一家との交わりを、語り手が回想する形で描いた長篇である。華やかな大学時代から、一家の没落と、そこにひそかに働く信仰の力までを描く。諷刺よりも、信仰と、失われゆく貴族社会への郷愁が主題となった、後期の代表作にあたる。

『大転落(Decline and Fall)』(1928年)

無実の青年が、次々と不運に見舞われていくさまを、辛辣な笑いで描いた小説である。上流社会の偽善を諷刺した、初期の代表作である。

文学史における立ち位置と影響

ウォーは、二十世紀イギリスの諷刺喜劇を代表する小説家として文学史に名を残す。上流社会の空虚と偽善を、非情なまでに醒めた笑いで描いたその作品は、イギリス諷刺文学の伝統における、優れた達成とされる。簡潔で切れのよい文体は、後の作家の手本ともなった。

前半生の辛辣な喜劇から、後半生の、信仰と郷愁を主題にした重厚な作品へという、その作風の変化も注目される。時代の移り変わりのなかで、古い価値が失われていくことへの複雑な思いは、二十世紀の保守的な精神の一つの記録となっている。

冷ややかな諷刺と、うつろいゆくものへの愛惜という、一見相反する二つの要素をあわせもった点に、ウォーの独自性がある。イギリス的な機知と、深い信仰の主題とを結んだ作家として、その位置は確かなものである。