グレアム・グリーン

原綴
Graham Greene
生没
1904–1991
出身
ハートフォードシャー州バーカムステッド
イギリス
時代
20世紀以降

生涯

1904年、イングランド南部の町バーカムステッドに、名門校の校長の息子として生まれた。オックスフォード大学に学び、新聞記者を経て作家となった。青年期にカトリックに改宗し、この信仰が、その後の文学の背骨となった。

生涯にわたり、世界の紛争地や辺境を、みずから旅した。メキシコ、西アフリカ、ベトナム、キューバ、ハイチ。政治的な緊張や、貧困、暴力のただなかに身を置き、その体験を小説に結んだ。情報機関に関わった経験もあり、そのスパイの世界も、作品の題材となった。

長い生涯を通じて、多くの小説を発表し続けた。娯楽性の高い作品と、より深い主題を扱った作品の、両方を書いた。世界的な人気作家でありながら、その文学は高く評価された。1991年、スイスで没した。

作風

グリーンの小説の核心には、カトリックの信仰から生まれる、罪と救いの主題がある。グリーンの主人公は、しばしば罪を犯し、信仰から外れた、堕落した人間である。だがグリーンは、その罪深い人間のなかにこそ、かえって神の恵みや、救いの可能性を見出そうとした。うわべの善人よりも、苦悩する罪人のほうに、深い真実がある、というのである。

その物語は、緊迫感に満ちている。追跡、裏切り、暴力、そして死の危険。政治的な陰謀や、犯罪の世界を舞台に、はらはらさせる筋が展開する。グリーンは、こうした娯楽小説の面白さと、人間の魂をめぐる深い主題とを、みごとに両立させた。読者は、手に汗を握りながら、同時に、善と悪の問題を突きつけられる。

舞台となるのは、しばしば世界の辺境や、荒廃した土地である。うらぶれた植民地、革命下の国、退廃した街。「グリーンランド」とも呼ばれる、こうした荒れた背景は、そこに生きる人間の、精神的な危機と響き合う。信仰と疑い、忠誠と裏切りのあいだで、人間の魂が試される場である。

作品

『権力と栄光(The Power and the Glory)』(1940年)

宗教が弾圧されたメキシコを舞台に、酒におぼれ、堕落した一人の神父の、最後の日々を描いた長篇である。信仰も勇気も失ったこの「駄目な神父」が、それでも司祭としての務めを捨てきれず、殉教へと向かう。罪深い人間のうちに救いを見るグリーンの主題を、最も深く体現した代表作にあたる。

『事件の核心(The Heart of the Matter)』は、西アフリカを舞台に、憐れみゆえに罪を重ねていく官吏の悲劇を描いた。娯楽小説としては『第三の男』が名高い。

文学史における立ち位置と影響

グリーンは、二十世紀イギリスを代表する小説家として文学史に名を残す。罪と信仰という重い主題を、緊迫した物語の面白さと結びつけ、多くの読者に届けた点に、その独自の達成がある。娯楽性と、深い思想性とを両立させた稀有な作家である。

とりわけ堕落した罪人のうちに救いを見るその宗教観は、二十世紀のカトリック文学に、深い刻印を残した。うわべの道徳では割り切れない、人間の魂の複雑さを見つめるその視線は、多くの作家に影響を与えた。

世界の紛争地を自ら歩き、その現実を作品に取り込んだ点でも、その文学は際立っている。政治と信仰、行動と思索を結んだその生涯は、二十世紀の作家の一つのあり方を示している。

登場する文学史